モレーンは何年ぐらいでできるんですか?
発言者:山口
(Date: 2001年 1月 18日 木曜日 23:24:04)
「何年ぐらいでどれくらいの規模のモレーンが出来るか」を具体的に研究した例はあるのでしょうか?
もしそのような文献がありましたらお教えください。
白岩@ETH さんからのコメント
( Date: 2001年 1月 20日 土曜日 2:33:20)
Annual moraineと呼ばれる1年間で形成される(と一般に信じられている)比高数十cmー1m程度のモレーンから、おそらくは数千年(数万年?)かかって形成されたであろう比高が100mを越すようなモレーンまで様々あると思います。
何か具体的な問題に直面しているなら、もう少し具体的にどこのどの程度の大きさのモレーンと指定してくれたほうが回答を得やすいと思います。
またお尋ねの文献のようなものは、ちょっと思い当たりません。「何年に形成された」という論文(専門家は編年と呼びます)は、20世紀を通じて大量生産され、それこそ掃いて捨てるほどありますが、「何年で形成された」という論文がないのはちょっと不思議だな。「に」と「で」しか違わないのに....
山口 さんからのコメント
( Date: 2001年 1月 23日 火曜日 15:52:16)
氷河モデルなどによって過去の氷河を再現(モレーン等によって)する際に、どのくらいの期間”定常状態”にすべきかについての情報がほしかったもので・・。
具体的には、氷河の規模は数kmから十数km、ターミナルモレーンの比高は数mくらいです。
↑
(僕の頭の中ではカムチャツカの氷河&日本の氷期の氷河のスケールのイメージ)
>「何年で形成された」
これに関してなにかアイデアがありましたら、お教えください。よろしくお願いします。
澤柿 さんからのコメント
( Date: 2001年 1月 23日 火曜日 17:12:00)
それは非常に難しい...
むしろ,いろんな定常時間を設定してみて,そのときにどういうふうに氷河
の変動が違うか,を出したほうが面白いのでは.第四紀屋としては,そうい
う結果のほうが興味深いです.
青木@CSIS さんからのコメント
( Date: 2001年 1月 23日 火曜日 18:05:02)
掃いて捨てられる論文も量産できない立場(苦笑)から言うと・・・
カレイタの場合、小氷期の間に複数のターミナルモレーンを形成していることになるわけですから、一列一列のモレーンの形成に要した時間は数10年オーダーに成るはずです。
これらのモレーンは一連のリセッショナル・モレーン群と考えられるので、数百年間に数十年の長さの定常状態を数回起こしながら、全体としては後退している状態(非定常状態?!)ですね。
時間スケールを考えると、「定常状態」の定義も難しいですね。
白岩@ETH さんからのコメント
( Date: 2001年 1月 23日 火曜日 22:16:14)
青木さん、すいません、そういうわけじゃなく....もちろん、私も捨てられた論文、何個か書いた口です。
以前、モレーンの形成には氷河の末端が一カ所にとどまるだけではなく、一端ちょっと後退してから前進して、氷河前面に貯まったティルをブルドーザーのようにかき集めるプロセスが必要と誰か言っていたように記憶しています。こうなると、氷河の定常状態などモレーンの形成にとっては必要条件でもなくなりますね。
「定常状態」というのはあくまでも人間の都合であって、自然に真の定常状態などあり得ないのでしょう。
山口さんの質問から離れてしまいましたが、カムチャツカの小氷期モレーンは青木さんのコメント通りとして、いったい日本のモレーンがどのくらいの時間間隙の間にできあがったものなのか大変知りたいです。2万年とか、4万年前に出来たのは判ったので、その頃の10年間、100年間、1000年間、10000年のどの程度なのか?完新世の氷河の変動を見ていると、100年以上、氷河が同じ場所にいるとは思えないんですよね。この安定した完新世でさえ。シュリヒターさんなんて、ヒプシサーマル(今ではClimatic Optimumと言うのかな)にアルプスの氷河が全部無くなったっていってますよ!
現実的には10−100年くらいの変動が無数に積み重なって、最後にそのモレーンのてっぺん付近を作ったのがテフラとかカーボンとかで出てくる年代じゃないんでしょうか?この辺が、氷河堆積物の情報から出てくると面白いと思います。
たぶん、長谷川さんとか北大地球環境グループはこの辺の地質学的な証拠を持っているのではないでしょうか?教えて下さいね。
松岡 さんからのコメント
( Date: 2001年 1月 24日 水曜日 9:18:49)
モレーンを掘った人っていませんか?断面構造を調べたり、、。いわゆる層構造があるとは思いませんが、一つのモレーンに含まれるものの年代がどれぐらいばらつくのでしょうか?
工事でモレーンを壊すときについでに調査とか、そういうことヨーロッパではありそうな気がするのですが。
澤柿 さんからのコメント
( Date: 2001年 1月 24日 水曜日 10:09:13)
そういえば,モレーンにも堆積順序を示す層構造はありますよ.
たしか以前に白岩さんがスイスだかヒマラヤだかのラテラルモレーンの層構
造の話を出していたように記憶してます.モルテラッチ氷河でもそういう研
究がありますよね.昨年,現地で購入したガイドブックに,一般向けの解説
がのってます.原典の論文を知ってますか?白岩さん...
白岩 さんからのコメント
( Date: 2001年 1月 25日 木曜日 2:55:25)
松岡さん、日本でモレーンを一番真剣に掘った人は、伊藤真人さんという人だと私は思います。明治大学の長谷川さんと私は、その人夫として、土方をやりました。しかし、伊藤さんの目的は、モレーンの上に堆積した火山灰を掘って、示標テフラという年代のわかっている火山灰を見つけるのが目的でした。ですから、モレーンの形成にかかった年代間隔を解明するという意識はあまりなかったと思います。この方法ですと、モレーンの形成時期は見つかったテフラの堆積期より古いことだけが証明できます。もし、モレーンの内部からテフラが出てくると、その堆積時にモレーンが形成途上であったことが推測できるわけで、このような例は日高山脈で、平川・小野両先生が見つけています。最近ではもっと色々な事例があったと思います。
ご指摘のように、欧米では氷河作用を受けた土地に住んでいるわけですから、当然モレーンを切り開いて宅地開発なんてこともあるわけです。ところがどっこい、こういうところではテフラがなく、年代決定はこれまで放射性炭素に頼るしかなかったわけです。当然、試料は限られますから、堆積年代に関する詳細な議論は少なくともヨーロッパのモレーンに関しては例が少ないと思います(あんまり調べてないので、自信なし)。
しかし、テフラと放射性炭素年代の両方が得られる南米アンデスのモレーンについては、ずいぶん詳しい研究があるようです。数字と場所は忘れてしまいましたが、ペルーだったかエクアドルだったかのヤンガードライアスのモレーンで、氷河地質学の分野では高名なクラッパートンさんとハイネさんが、同じ露頭でそれぞれ20個くらいの年代を独自に求め、氷河前進期の詳細な議論をしていたのを発表で聞いたことがあります。でもモレーンがどのくらいの速度で形成されるかという話はしていなかったような。
しかしこういう場所はまれで、だいたい露頭から数個の年代がでてきたら歓喜してしまうのが普通ではないでしょうか(伊藤さんは、テフラが一枚でた時、旅館に1泊して飲み放題でした)。だから、なかなかモレーンの形成期間を詳細に議論することができないんだと思います。最近進展してきたTLやベリリウムなどの宇宙線照射年代法が進めば、状況は改善されることを期待したいです。
澤柿さん、モルテラッチの研究については知りませんでした。なんせ、モルテラッチは、子供をおんぶして歩いたため、ほとんど子守状態で、地形見てません...そのうち、メッシュさんに聞いて、わかったらアップします。
うー、純粋地形屋さん、もっとフォローしてくれぇ。
長谷川(明治大・非) さんからのコメント
( Date: 2001年 1月 25日 木曜日 3:15:35)
一昨日からアップしようと思いながら,本日実施した試験の準備に追われておりました.すんませんです.
側堆石内側の露頭や底堆石の露頭の観察は,欧米でかなり多く実施されていますよね.日本の場合も詳細な露頭観察・解析が実施されているのは(非常に数が少ないですが)底堆石の露頭です.端堆石の構造をきちんと記載した事例ってどれくらいあるんでしょうか? 小生の記憶(あいまいですし,フォロ−してない論文も多いのであまり参考にならないかな)では,小規模なプッシュモレ−ンについての観察事例は見たことありますが,規模の大きい端堆石(谷氷河の)についてはほとんど思い浮かびません.ロ−レンタイド氷床の端堆石と考えられていたリッジ状・丘状地形の多くが,その後の内部構造の観察結果から氷河変動性堆積物(glaciotectonite)と認定されるようになった…というのはありますけど(この辺は澤柿さんのほうが詳しいでしょう).
側堆石構成層中に腐植質層が挟在する事例,つまり地形的には一回の氷河前進に伴って形成されたように見える1本の側堆石が,実は数回の氷河作用の結果として形成されたものである,という事例は多いですよね.代表例はR嗾hlisbergerの「10000(12000?) Jahre…」でしょうか.これは一時期白岩さんがかなり入れ込んでたので,紹介をお願いします…(他力本願…).
具体的にどのくらいの時間で端堆石が形成されたか,という点に触れていた研究事例でパッと頭に浮かぶのは,アイスランドやノルウェ−のannual moraineの事例(白岩さんのコメント参照),あと印象的だったのはヤラ氷河の小野さんの論文でしょうか.小野さんの結論では,比高1m前後のannual moraine列の中に比高5m前後の一回り大きなリッジが存在し,それは年周期の氷舌端変動よりも大きな再前進にともなって形成された(5年分のannual moraineがプッシュされて形成された,だったかな…)ということだったと記憶しております.
もっと規模の大きな端堆石の場合で形成時間に関する情報が含まれる研究事例としては,氷河サ−ジに伴って形成されたプッシュモレ−ンについての研究があります.定常状態なしでも比較的大規模(比高10〜数十m?)な端堆石が形成されるわけです.たしかアイスランドでの研究例があったと思います(ごめんなさい,論文を引っ張り出す時間がないままアップしてます).
日本では,前述のように詳細な露頭解析は底堆石でしか実施されていない訳ですけど,これまで見てきた露頭のいくつかの事例を紹介すると,
1)松川北股入(白馬岳東面)の金山沢端堆石(20ka):ダンプモレ−ン(氷河上・氷河内岩屑が積み重なって形成された端堆石).構成層は大部分ガサガサの氷河上ティル
2)同上,赤倉沢端堆石(25ka or 60ka?):プッシュモレ−ンあるいはそれ以前の底堆石の削り残し.構成層は大部分が変形ティル(deformation till).
3)同上,岩岳端堆石(60ka?):タンプモレ−ン? 構成層は最上部で見える範囲で氷河底起源物質からなるフロ−ティル.
といったように,一つの谷でも端堆石の構成層にはずいぶん違いがあるようです.端堆石の形成時間を考えるうえで問題になるのは上記1)や3)の場合ですよね.これらももしかしたら本質的にはプッシュモレ−ンなのではないか,と最近考えるようになりました.プッシュモレ−ンの形成は氷河サ−ジと結びついている事例が多いようなので,その視点も含めて昨夏から露頭を巡り歩いています.金山沢端堆石のように露出状態の良い堆積物を詳細に記載すれば,きっとヒントが得られるのではないかと考えております(問題は落石…).
あと興味深いのは槍沢一ノ俣端堆石と横尾岩小屋端堆石の規模の違いです.最新氷期前半の亜氷期の端堆石としては,一列のリッジからなる横尾岩小屋端堆石が一般的な規模(リッジ基部から頂部までの比高40〜50m)を有するのに対して,一ノ俣端堆石は比高数m〜20mの小規模なリッジ数列(6列?)からなっています.これ,小野さんのヤラ氷河の事例と似てるんですよね.この辺をとっかかりにして北アルプスの端堆石の形成プロセスを論じられないだろうかと考えているのですが.
思うにまかせて長々書きこんでしまいました.山口さんの疑問に対する返答にはまったくなっていませんがお許しください.
白岩 さんからのコメント
( Date: 2001年 1月 26日 金曜日 23:28:23)
長谷川さん、すっかりFridrich Roethlisbergerさんの仕事を忘れておりました。確かに彼はラテラルモレーンから多数の年代を出して、詳細に氷河変動の様子を書きだしたという点で、「どれくらいのモレーンが何年くらいでできるか」という当初の山口さんの疑問にある意味では答えていますね。
原題のドイツ語は手元に本がなくわかりませんが、邦訳は「地球の氷河史1万年」という本です。彼の元々のアイデアは、ラテラルモレーンに層状にはさまっている古土壌は、氷河表面がラテラルモレーンよりも下がった氷河縮小期に形成が始まり、その後、氷河表面が上昇する拡大期に堆積するティルによって埋積されて古土壌になるというものです。そして、その古土壌から試料を採取し、その炭素放射年代を、ある特殊な化学処理をした二つの試料について測ると、古土壌の形成が始まった時(すなわち氷河縮小期)と古土壌が埋まった時(すなわち氷河拡大期)の二つの情報が1個の試料から得られるという夢のようなお話でした。
たぶんこの考え方のアイデアは、年代測定の専門家であるGeyh教授からもたらされたのではないかと想像するのですが、モレーン上に土壌が発達する場合を考えると、最初に地衣類などのパイオニアが入って、それに続いて順々に高等な植物が入ってきますよね。そこで彼らが考えたのは、地衣類の年代だけ測ることができれば、古土壌の形成初期の年代が得られ、古土壌全体の年代を測れば埋もれる直前の年代が出るので、二つの年代が得られるということだったと記憶しています。はたして、このような新旧二つの年代が、アルプスのフィンデルン氷河で得られたので、Roethlisbergerさんはこの手法を携えて、スイスの奨学金かなにかをつぎ込んで、学校を休んで(確か彼はジュラ山地に近いアーラウの高校の先生です)世界中の氷河からサンプルを集め、とりまとめたのが上記の本です。
結果的に彼が上の本で提示した世界の様々な地域の氷河変動は数百年から千年程度の変動曲線を細かく書いていて、1980年代末の頃では、氷河地形の編年からこんなに細かい変動が復元できるのか?と、衝撃的でした。とくに、通常、氷河地形研究からは線を引くことのできない、氷河縮小期のカーブが彼の報告には出ていて新鮮だったのを記憶しています。
私も「こんなうまい話があるのか!」と感心して、ヒマラヤのリルン氷河のラテラルモレーンにへばりついて探したところ、果たして、水平の古土壌が見つかりました(この方法、結構危険です)。もっとも年代を測定したら、1910年くらいに相当するような値だったので、あまりにモダンではっきりした証拠にはなりませんでしたが...
というわけで、彼の仕事によって、氷河変動の詳細なカーブが描かれるようになりましたが、やっぱり最初の疑問である「どのくらいの時間で、どのくらいの規模の氷河ができるのか?」に答えるためには、氷河が一カ所にじっとしているような定常状態があって始めて答えられる問題なので、あらためて考えると、とっても奥の深い質問のような気がしてきました。
蛇足ですが、1990年の始め頃には盛んに引用されたRoethlisberさんですが、この前後に盛んになった高時間分解能の古気候プロキシ研究(氷コア、湖底コア、海底コア、年輪、サンゴ...)の台頭で、すっかり陰をひそめてしまいましたね。私としては「地球の山岳氷河は過去1万年ほぼ同期して変動していた」という結論はともかく、方法論としては画期的な研究だったと思います。
澤柿 さんからのコメント
( Date: 2001年 1月 27日 土曜日 1:53:14)
白岩さん.私がいってたやつ,それです.
ガイドブックには,上記のことがイラストで素人にもわかりやすいように
解説されてます.(といってもドイツ語なのですけど)
長谷川(明治大・非) さんからのコメント
( Date: 2001年 1月 27日 土曜日 2:10:27)
白岩さん,Rothlisbergerの研究紹介ありがとうございます.ドイツ語であるというだけで気が引けて,小生は図しか見ておりませんでした…….
Rothlisbergerの研究の後,側堆石の形成過程を示す図が多くの教科書・論文で描かれるようになりましたが,やはり端堆石についてはそのような図を見た記憶がありません.
白岩さんが解説してくれたような側堆石の発達様式(上に積み重なっていく)は,一度ある程度の規模の側堆石が形成されると,その後の氷河拡大期の氷舌が側堆石に規定されて流下するために生ずるものと考えられます.しかし,以前の氷舌端より下流側まで氷河が拡大すれば,過去に形成された端堆石は完全に破壊されるか,少なくとも上を乗り越えた氷河により変形(侵食)される訳ですから,やはり側堆石のようにはいかないと思います.
でも逆に言えば端堆石では難しくても,かなり詳細に年代資料の蓄積されている地域の完新世の側堆石であれば,一定期間における堆積土砂量を見積もることもできそうですね.
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