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氷河屋vs地形屋 # 会議室:「Glacier BBS」

氷河屋vs地形屋 #

以下2000/10/27〜10/31までの記事は,雪氷学会若手・北大低温研氷河関係者十数名の間で交わされたメールの内容を,関係者の同意のもとに,ここに転載したものです.11/1以降は,その議論をこの掲示板に移して,ひろく一般にオープンしました.

氷河屋vs地形屋からの続き


澤柿 さんからのコメント
(Date: Mon, 30 Oct 2000 13:06:28 +0900)

皆様
澤柿です.

MacAyealの仕事,氷河底の地下水のこと,氷河関連学における演繹的手法vs帰納的手
法についての大体の概要は,

澤柿教伸 & 平川一臣 (1998): ドラムリンの成因と氷河底環境:氷底堆積物の変形か
氷底水流か.地学雑誌, 107(4), 469-492

にレビューしてますので,読んでない方は一読を.
白岩さんが紹介してくれた最近のBoultonの仕事は,レビューを書いた当時は「今後
が楽しみ」程度に思ってましたが,ついにそこまできたか,という感想です.

ここでの議論を読んでいて思うことは,前回の「比較氷河」のときはまだD論の真っ
最中で,当時考えていた「理想の研究体制」みたいなものがようやく形になってきた
かなあ,という感想です.実はあのとき,Hindmarsh氏も低温研の会場に来てたんで
すよねえ.まだ世間知らずだった私は,彼の前で,ドラムリン問題って知ってるか,
なんて大きな口をきいていたこと,その後,彼とBoultonが,数式でドラムリンの形
成過程を解析した論文を出して,しまった!と思ったことなどを懐かしく思い出して
ます.

南極から帰ってきて,D論研究に取りかかろうとしてたときも,実はその道の先駆者
であるJim RoseやDerbysherと中国で一緒にフィールドを歩いていながら,彼らの仕
事を知らなかったばっかりに,絶好の機会を逃したことなど,常にすれ違いの経歴を
過ごしてきました(同行していた小野先生ですらそうなのですから,日本の現状は推
して知るべしです).その反省もこめて,上記のレビューを書いています.

あまりレビューへの反響を聞かないので,外したかなあ,とも思っているのですが,
今から考えると,けっこういけてるレビューじゃないかと自画自賛してます(笑).

今度の比較氷河のやり方にはいろいろ意見があるかと思いますが,「次の10年間に我
々はなにをすべきか」ということを見据えた会にしたいですね.


松元 さんからのコメント
( Date: Mon, 30 Oct 2000 22:32:06 +0900)

関係者のみなさま

こんにちは。
こういう話題になると興奮してしまうか無関心か、いつも振幅のでデカいまつもと@
低温研です。
いやはや、金曜深夜は煽りすぎでしたか。すみません。
夕方から夜にかけて「ちゃんちゃん焼き&芋煮会」という企画があり、その場で山口
や紺屋・森嬢らと比較氷河のハナシで相当盛り上がっていたままメールに向かってし
まったもので。
といっても、別に酔っぱらっていたわけではなく、述べた意見をいま撤回しようとい
うわけではありません。
何か書いているウチにオノレの文章にどんどん興奮してきて、正のフィードバックが
かかってしまい、少々カゲキなところまで行ってしまいましたかなあ、というハンセ
イがちょっとあるということであります(カタカナで書く程度のハンセイ、ですが)。

ただ、ひとつ不安なのは、金曜の時点で私が見ていてもあまりに急速と思えるくらい
に「氷河屋vs地形屋」というのが今回のテーマとして確定した(?)点です。
私の2回の発言は、すでに確定してしまっているとの認識で、「それならひとつ思い
っきりヤルべし」という観点で煽ったものなんですけれど。
もしテーマそのものを再考、あるいはもっと練る余地があるし、現にそうしていると
いうならば、私の意見はかなり先走ってしまっております。そうならば、

> いろいろ意見がありますが、結局は最後に澤柿さんの提案した「次の10年間に我々
はなにをすべきか」という視点に私は賛成です。比較氷河研での議論が、このもう
一方の流れを作れることが理想だと私は思います。

という白岩さん発言に全くもって賛成です。
こうまで山口と私が「氷河屋vs地形屋」というネタになると意気盛んになってしま
う理由のひとつには、以下、白岩さん御指摘のような経緯があり、とくに山口さんな
どは「来年の地理学会にナグリこんでやる(文章はかなりオーバーになってます)」
と鼻息が荒いところに、今回の比較氷河研究会のハナシがきたので、一気に沸騰して
しまったわけですが。

> 山口・松元組の「氷期の氷河の具体像」を主テーマにしようという提案ですが、
個人的には面白いと思うし、春の地理学会のシンポジウムでもかなり意識したテーマ
ですが、春の段階では学会でのシンポということもあり、充分議論する時間がありま
せんでした。

白岩さんのおっしゃるような「市場調査」はしなくていいんですかねえ。
それともこのまま勢いで「氷河屋vs地形屋」に持ってっていいんでしょうか?
地形屋側はこのままでいいように見受けられますけれども。
金曜深夜に、コーフンついでに氷河グループの掲示板の過去ログを2時間ほど眺めて
いたのですが、グロスワルド先生の論文についての議論から「氷河作用研究グループ
」発足そのほかまでの経緯も、こんな感じであっという間でしたね、白岩さん。これ
だけ速く話題が走っていくということは、同様に問題意識がいろんな人の間で熟しつ
つあったということか、はたまた一部コーフン野郎どもの先走りか・・・。

でも、もう広告打っちゃったんですよね、藤田さん、澤柿さん。どうしますか。

> 藤田さんの考えていたテーマも是非教えてください。

そうですね。教えて下さい。

ところで、

> >「Subglacial groundwater flow and geochemical and mechanical effects」の
話面
> >白いですね。
> >論文になっていないんですか?

いやあ、Boultonさんの氷河底地下水はもうそんなエキサイティングなところへ達し
ているんですね。
論文読んでみたいけど、まだみたいですね。
全然事情が分からないヤツの戯言ですが、白岩さんの言ってた「基調講演」は夢物語
ですか、やはり?
ぜひハナシ聞いてみたいですなあ。

では。


内藤 さんからのコメント
( Date: Tue, 31 Oct 2000 00:43:36 +0900)

皆様
内藤です。

At 18:50 2000/10/30 , Takayuki Shiraiwa wrote:
>
「流動と堆積物」の話は大変面白いのですが、欧米の流れを見てみると、この話題が
アウトブレイクする前後に、氷河流動の捉え方が「層流近似」から「高い次元の氷河
流動の力学」に移行する流れがあったわけです。また、堆積物や地形に関しては、澤
柿さんのレビューに書いてあるとおり、ドラムリンやP-formなど新しい解釈が出てき
て、氷河の流動プロセスとの結びつきを模索する動きがあります。日本の場合、ダイ
ナミクス屋は観測では層流的でない現象を捉えつつある一方、モデルの面では大部分
が層流近似を用いているので、「ティルの形成・堆積」という氷河流動の不連続な振
る舞いに起因する現象を地形屋さんと議論するためには、モデル屋さんがまず層流近
似を抜け出す必要がありますよね?東大の阿部・斎藤組がいま氷床モデルに組み込も
うとしているようですが、やはり谷氷河のような縦応力のどんどん変わる地形でこそ
この力学が役に立つので、内藤さん、山口さん、杉山さん、チャレンジお願いします
(えらそうなこと言っていますが、ほとんどBlatterさんからの受けうりで、ちゃん
ニ理解した上での発言ではありません。あしからず)。このような考ぁw)┐:?:ぢナ、「
ャ動と堆積物」を比較氷河研の主要テーマにするのは時期早尚と言ったのですが、考
ヲ方を変えると、このようなテーマが今後の10年に重要という結論であれば、では
ヌうやってそれに取り組むか?というのが比較氷河研のテーマにもなりうるのかなと
燻vいます。

-----
「層流近似」の問題に関するご指摘、興味深く読ませていただきました。
個人名を挙げられていることもあり、コメントさせて頂きますと...

氷河底(+横?)の流動プロセスを、氷河ダイナミクスの面から扱う場合、ご指摘の
通り「層流近似」では全く話にならないと言って良いと思います。
ただし「高次元の氷河流動の力学」というのは、理論的にはそれなりに可能なのです
が(といっても氷の流動則ですら問題を含んでいるので、厳密な意味では大いに問題
が残っていますが、、、)、現実的にはやはり観測データの不足が一番のネックでし
ょう。
例えば層流近似による谷氷河の一次元変動モデルを2次元や3次元に拡張することは
、理論的には(プログラム作成的には)可能であっても、その分パラメータが増えて
モデルの不確定要素が増してしまうことになり、詰まるところ何をやってるのか分か
らなくなってしまう、、、ことになると思います。
要は「何をやりたいか・知りたいか」の問題意識と「何ができるのか」の現実問題と
の兼ね合いでしょう。
その点、スカンジナビアやアルプスの氷河では氷河底・内の観測が積み重ねられてい
る分、「できる範囲」が拡張しており、その点では彼の地の研究者がこの分野での最
先端をいっているのは大いに頷けます。
彼の地の氷河の地理的条件(容易なアプローチ)がこの点に利しているのは当然です
が、まさに「問題意識」と「現実問題」としての「観測の充実」が相互作用として発
展してきた好例のような気がします。(卵が先か、鶏が先か)

そんでもって、私個人の現時点での立場というか問題意識で言うと、「堆積物と流動
」というテーマで地形屋さんの話を聞くことは大いに楽しみなのですが、私自身が「
氷河流動」という面から彼らの期待に答えられるか?と自問すると、正直言ってあま
り自信持てずにいます。
D論絡みであまり余裕がないということもありますが、とりあえず私の今の一番の興
味の対象は「(とりあえず比較的短い時間スケールでの)氷河変動」、それも主に「
ヒマラヤの氷河」ということになります。
「層流近似」についても、この興味に沿った形では、必要な改善(側方効果について
)や検討(縦応力効果について)を行っているつもりですが、氷河底については「手
が出ない」というのが実状といって良いでしょう。
(ちなみにクンブ氷河のモデルにおける簡単な感度実験では、氷河底部の流動の取り
扱いの違いはモデルの結果にさほど影響を与えませんでした。)

むしろ私の立場としては、現在の谷氷河モデルに対する問題意識として、層流近似か
ら「高次元モデル」へ発展させるという方向とは実は逆で、「0次元モデル」(実は
これはチャーリー・レイモンド氏の受け売りなのですが、、、)というべきものがで
きないか?というものです。
つまり一生懸命、時間をかけて観測データを集めて、個々の氷河に対するモデルを作
ったとしても、それは所詮!?一つの氷河に対するものでしかない。
例えばクンブ氷河一つの変動を詳細に知ることよりも、多少精度は粗くてもヒマラヤ
全域での氷河変動を示すような「0次元モデル」は考えられないか?という発想です。
この発想は今春チャーリーさんが名古屋に来てた時にゼミで話した内容なのですが、
かなり示唆に富んでいたと思っています。
ただしまだまだ具体的には頭の中に形になってないものなので、あまり突っ込まれて
も答えられませんので、あしからず。
(キーワード的には、規模と応答時間を含む「氷河の感度」を個々の氷河の指標とし
て与え、それを統合して地域のモデルを組み立てる、という感じかなぁ?)

ただし堆積物について興味が薄いというわけではなくて、例えば、個人的にこれから
のヒマラヤの氷河研究・観測における新たな「課題」を考えてみた時のキーワードの
候補として、「『氷河底・内』の『水』と『堆積物』」が挙げられるのでは?と考え
ています。
(ヒマラヤ氷河グループの他の人のコンセンサスが得られるかどうかは知りませんが)
これは流動に限らず、坂井さんや竹内望さんの唱えている、「(特にデブリ氷河の)
融解プロセスにおける氷河内水系の役割」という点からも、今後脚光を浴びるでしょ
う。
したがって、今回「堆積物と流動」を比較氷河研究会のテーマ(の一つ?)にするこ
とは全く異論ありませんし、大歓迎なわけです。

澤柿さんや白岩さんの言われている「これからの10年に何をなすべきか」という問
題設定にも大賛成です。
この意味では、純粋な科学的興味からの「問題意識」のすり合わせ?という演繹的な
方向だけでなく、最近の観測・解析技術の進歩(「できる範囲」の拡張)をレビュー
的に知ることで帰納的に新たな「問題意識」が生まれてくることもあるだろうと思っ
ています。
たまたま?先に挙げたリモ・セン、コア、年輪、絶対地質年代決定、レーダーなどは
、まさにこの範疇に入りますよね。
氷河地形学についても、私としては「氷河屋が知らないor弱い部分の情報を得る有
効な手段の一つ」として捉えていて、そういう意味で上記と同じ「観測技術?」の一
つだと捉えているという訳です。

なんだかまとまりのない文章で申し訳ないのですが、とりあえず思いついたことを書
き連ねました。
なんとなく皆さんの「堆積物と流動」熱に水を差しているような気もして恐縮なので
すが、、、まあ私個人の正直な感想というか、コメントです。

>
山口・松元組の「氷期の氷河の具体像」を主テーマにしようという提案ですが、個人
的には面白いと思うし、春の地理学会のシンポジウムでもかなり意識したテーマです
が、春の段階では学会でのシンポということもあり、充分議論する時間がありません
でした。氷河地形屋からのニーズとしては、大変感心の高い話題だと思います。しか
し、比較氷河研でテーマとした場合、氷河屋でこのテーマに感心を持っている人がど
のくらいいるか。一応、事前に調査したほうが良いと思いますよ。氷河屋も興味を持
っているということであれば、充分テーマとなりうるとは思います。

-----
氷河屋で、このテーマに関心を持っている人がどのくらいいるか?またはどの程度の
関心か?ということは、私もやや心配です。
私の場合で言うと、不勉強のせいもありますが、「日本における氷河の存在」という
テーマについては、「面白そうな話題ではあるな」とは思えても、(少なくとも現在
は、)それ以上の関心は持っていないというのが正直なところですね。
実際、どういうことが問題とされているのか全くと言っていいほど知らないわけです
から、もう少し勉強すれば関心の程度も変わるかも知れませんが...

> 内藤さんへ、
>
ヒッポファミリークラブとは?今でもあるかどうかわからないが、多数の言語を話す
環境に身を置いて、一度にマルチリンガルになってしまおうという結構虫の良い語学
教室。当時はバカにしていたが、スイスに来て、ヒッポファミリークラブの実線があ
ながちウソではないことを発見した。また、このクラブは、フーリエ解析や量子力学
などをみんなで理解してやろうという本も出している。実は、つい最近、コアの時系
列データのフーリエ解析で、この本が大変参考になった(なんて、ちょっと恥ずかし
い)!

-----
ご教示頂き、ありがとうございました。
面白そうなグループですね。

-----
なお松元君のメールにもありましたが、藤田さんは現在長岡のアイスドリリング・ワ
ークショップに行っていて不在です。
今週後半には戻ってくると思います。

またBoulton氏やHooke氏を招聘しての基調講演という発案は、
私も話聞いてみたいし、期待したいですね。
現実的に可能かどうかは、私には何とも言えないので、藤田さんからお答えがあるも
のと思います。


白岩 さんからのコメント
( Date: Mon, 30 Oct 2000 18:13:23 +0100)

内藤様
他、皆様

早速、モデルの話題にお答えいただきありがとうございます、内藤さん。こちらモデルのほうは全くの素人で、知ってることを書いて、それに対するお答えから勉強する点が多々あります。特に実際にモデルを扱っている内藤さんからお答えいただきありがたく思っています。

一応、「堆積物と流動」の議論には層流近似が使えないという話題へ話を持っていきましたが、現実に私が直面している問題は、カムチャツカのクレーター氷河です。サラマーチンさんと共同でクレーター氷河のモデルを提示したは良いものの、クレーター氷河のようなアスペクト比(長さと厚さの比)の大きな氷河で、Shallow ice近似を使ってよいものか常々疑問でした(学会で東信彦さんからも質問された!)。論文が出てしまってから言い訳するのもちょっと情けないのですが、今回JGに出たモデルは、定常状態での2次元モデルですから現実のコアの年代決定に適用するには限度があります。そこで、こちらに来てから、BlatterさんのHigh Orderのモデルにクレーターの地形情報を入れて走らせてみたところ、Shallow ice近似では現れて来ない、底面付近の上向きの流動など、底部付近のコアのの年代決定やクレーター氷河の動力学を考えるにあたって重要と思われる点がわかってきました。もっとも、このBlatterモデルは完全なIsothermalで質量収支を考慮しない力の釣り合いのみを考慮したものですから、まだ現実のダイナミクスを再,,,,現するには多くの努力(かつ私ができないコーディング)が必要ですが、とりあえず、High orderのモデルの威力を痛感したわけです。


>要は「何をやりたいか・知りたいか」の問題意識と「何ができるのか」の現実問題と
>の兼ね合いでしょう。

ご指摘のこと、もっともです。私の場合は、クレーター氷河の底部の動きが知りたいという、かなり特殊な希望があるため、High Orderのモデルが必要なのだと良く理解できました。そして、このBlatterモデルをよりよく走らせるためには、現場からあとどのようなデータが必要なのかを今検討し始めたところです。しかし、この方向で行くと「きりがない」というのは判っていて、どこまでやれば満足できるかが問題です。クレーターのほうに関しては、とりあえず、コアから出てきた年代と、あまり仮定を入れずにモデルで計算した年代がほぼ一致するような結果が得られた段階で止めようとは思っていますが、誰もクレーター氷河の動きなんてやっていないので、氷河流動の極端なケースとして純粋に追求しても面白いのではないかとそそのかす声も聞こえています。


>むしろ私の立場としては、現在の谷氷河モデルに対する問題意識として、層流近似か
>ら「高次元モデル」へ発展させるという方向とは実は逆で、「0次元モデル」(実は
>これはチャーリー・レイモンド氏の受け売りなのですが、、、)というべきものがで
>きないか?というものです。
>つまり一生懸命、時間をかけて観測データを集めて、個々の氷河に対するモデルを作
>ったとしても、それは所詮!?一つの氷河に対するものでしかない。
>例えばクンブ氷河一つの変動を詳細に知ることよりも、多少精度は粗くてもヒマラヤ
>全域での氷河変動を示すような「0次元モデル」は考えられないか?という発想です。
>この発想は今春チャーリーさんが名古屋に来てた時にゼミで話した内容なのですが、
>かなり示唆に富んでいたと思っています。
>ただしまだまだ具体的には頭の中に形になってないものなので、あまり突っ込まれて
>も答えられませんので、あしからず。
>(キーワード的には、規模と応答時間を含む「氷河の感度」を個々の氷河の指標とし
>て与え、それを統合して地域のモデルを組み立てる、という感じかなぁ?)

Haeberliさんだったか、Johanessonだったか誰だか忘れましたが、氷河の傾斜とResponse timeの関係を出していましたが、あのような奴ですか?面白そうですね。期待しています。

以上、お礼まで。比較氷河の話題からズレたとりとめのない意見で失礼しました。


山口 さんからのコメント
( Date: Tue, 31 Oct 2000 03:38:15 +0900)

山口@低温研です。


参考までに、

W.GREUELL, 1992:Hintereisferner, Austria:mass-balance reconstruction and
numerical modelling of the historical length variations. Journal of
Glaciology, Vol.38, No. 129
でlongitudinal deviatoric stress を取り扱ったモデルと無視したモデルの計算結
果を比較しています。考慮しても考慮しなくても応答時間等にまあまり影響がなかっ
たというのが結論です。

また、先の内藤さんのメールにかかれていたこと(パラメータを増やすと・・・や問
題意識・・・等)、モデル屋の端くれとしてはいちいちもっともで非常に共感を覚え
ました。


> >むしろ私の立場としては、現在の谷氷河モデルに対する問題意識として、層流近
似か
> >ら「高次元モデル」へ発展させるという方向とは実は逆で、「0次元モデル」(
実は
> >これはチャーリー・レイモンド氏の受け売りなのですが、、、)というべきもの
がで
> >きないか?というものです。
> >つまり一生懸命、時間をかけて観測データを集めて、個々の氷河に対するモデル
を作
> >ったとしても、それは所詮!?一つの氷河に対するものでしかない。
> >例えばクンブ氷河一つの変動を詳細に知ることよりも、多少精度は粗くてもヒマ
ラヤ
> >全域での氷河変動を示すような「0次元モデル」は考えられないか?という発想
です。
> >この発想は今春チャーリーさんが名古屋に来てた時にゼミで話した内容なのです
が、
> >かなり示唆に富んでいたと思っています。
> >ただしまだまだ具体的には頭の中に形になってないものなので、あまり突っ込ま
れて
> >も答えられませんので、あしからず。
> >(キーワード的には、規模と応答時間を含む「氷河の感度」を個々の氷河の指標
とし
> >て与え、それを統合して地域のモデルを組み立てる、という感じかなぁ?)
>

面白そうですね。ある意味”比較氷河の原点”みたいな考えですね。


さて、私が提案した「氷期の氷河の具体像」に関していろいろご意見が出ていますが
、先のメールに書きましたようにこれはあくまでも私の興味で決めたものなのでこれ
に固着するつもりはありません。ただ、せっかく氷河屋と地形屋が集まるので、広く
浅く議論をするのではなくひとつのことをじっくり話したら面白いのではないかと思
い、そのひとつの例としてあげたのに過ぎないので・・・。しかし松元のメールを見
る限り私が”打倒地形屋”の筆頭のようだな・・・・。

山口さんへ、
>今年の3月に地理学会のシンポジウムでそのような話を”白岩さん”をはじめとする
>人が発表しそれに私も参加しましたが、大御所を前に”純粋氷河屋”が私一人だった
>ために疑問等あったのですが発言できませんでした・・・・・・・・。
「疑問等」ってなぁに?こういうメールや、寒冷地形のMLで聞いてみたらどうですか
?案外、山口の疑問はすぐに解けるかもしれませんよ?酒飲んだ後の山口との議論よ
りは実り多いと思うけど。


一番聞きたいことは、氷河地形から氷河を再現する際にその当時の氷河の状態まで考
えているかと言うことです。
たとえば、その当時の
・涵養機構は、また消耗機構は?
・流動特性は?

具体的には
・氷阿の上端と下端の高度差が平衡線高度の振幅より小さい氷河はモレーンを作成す
るほど安定して存在できるのか(世界で5年以上平衡線高度が調べられている氷河(
62)の平均の平衡線高度の振幅は390m(山口修論より))。

・氷体形成のメカニズム:温暖氷河の氷化深度は20m以上(河島、1989)、それとも
上積み氷で涵養?←そうすると小涵養・小消耗型???

・小さい氷河(小さい涵養域)で流動するくらいの氷ができるのか?またモレーンを
作るくらいの侵食力があるのか

・底面すべりはあったのか?その大きさは?

etc.

このようなことまで考えて日本の氷期の氷河を再現し、実際の氷河で行われている観
測結果と比較して”矛盾がないのか”もし”矛盾があれば”それを解決するにはどの
ような仮説が必要か、またその仮説を証明するにはどのような観測が必要なのか(実
際の氷河や地形調査で)等を考える必要があると思います。←氷河屋と地形屋の歩み
よりのひとつの可能性???

と、こんなことを書くとまた”打倒地形屋”の筆頭と間違えられてしまいそうですが
・・・・・。

まーまだ時間もあるので、主テーマを決める決めないも含めてどちら側からの出席者
からも有意義な会だったと思えるような方法を考えていきましょう。

それでは失礼いたします。


白岩 さんからのコメント
( Date: Tue, 31 Oct 2000 10:45:03 +0100)

こんにちは。

>参考までに、
>W.GREUELL, 1992:Hintereisferner, Austria:mass-balance reconstruction and
> numerical modelling of the historical length variations. Journal of
>Glaciology, Vol.38, No. 129
>でlongitudinal deviatoric stress を取り扱ったモデルと無視したモデルの計算結
>果を比較しています。考慮しても考慮しなくても応答時間等にまあまり影響がなかっ
>たというのが結論です。

参考論文教えてくれてどうもありがとう。ひょっとすると、「High order model」に関するこちらの真意が伝わっていないことを危惧して、蛇足とは思いますが補足しておきます。モデル屋さんにダイナミクスやモデルの話をするのはおこがましいのですが、それはまぁ、勢いというやつで...

High order modelの必要性は昨日も書きましたように、形の複雑な氷河(応力が場所によって不連続に変わる氷河)や、局所的な氷河のダイナミクス(例えばTillの上の流動とか、局所的な底面すべり)を扱う場合に必要になってきたと理解しています。従って、Hintereisfernerのような比較的単純な形の氷河で、歴史時代の氷河の全般的な形態を復元するような仕事で、縦偏差応力が重要でなかったという結論はいちいちもっともです(クンブ氷河でさえ、あまり重要でないというのはちょっと驚きでした)。

山口くんの扱っているカレイタ氷河も、末端部のアイスフォール状の部分がやや気になるものの、総じて単純な形の氷河で、層流近似で大まかな形態の復元が可能であることはHintereisfernerと同じでしょう。だから、山口くんの学位論文の1部分として、歴史時代のモレーンの分布と、氷河モデルから出力される過去の氷河問題を比較することは、Greunellの例を出すまでもなく、実に理にかなっていると思っています。

ひるがえって、カレイタ氷河で同時進行で進めている局所的な底面すべりの時間変動の観測結果を考えてみましょう。今年の観測結果はわかりませんが、これまでの結果では、地点毎の融解量に応じて、その場の底面すべりが他地点とは独立して生じているという結果ではなかったでしたっけ?ということは、縦偏差応力が厚さとは独立に場所毎に変動しているということだよね?ずいぶん前に、氷河グループのゼミで、各地点の底面すべりの観測結果から地点毎の底面すべりの式に入れる係数を求め、それを全体的に平均してひとつの係数として使用することの可否を議論したことがありますよね。山口はモデルに入れるために平均化することの妥当性を力説し、成瀬さんと僕が良く理解できなかった議論。今ふりかえってみると、これは、「層流近似モデルには不必要なほどの細かい情報をとりすぎてしまったために、層流近似モデルの必要とする粗い情報に戻す過程」であったのではないかと思います。とすると、GPS観測による細かい流動の成果を生かすには、層流近似モデルではもったいないという結論にならないだろうか?Macheretさんらのお陰で、氷厚に加え、ひょっとぁw@w@w@wXると内部や底面の水文状態が明らかになりつつあるカレイタ氷河は、アルプスとはいかないまでも、かなり基礎データのしっかりした氷河になりつつあると思います。もちろん学位論文で全部とはいかないまでも、先の展望を色々考えて解析を進めてみることを勧めます。

モデルに携わっていないくせに「えらそうなことを言うな」と思うことは充分承知しています。誤解や間違えがあったら教えてください。離れてみると案外見えてくることもあるもので、老婆心とは思いながら指摘した次第です。じゃ、「High order modelを教えてくれ」と言われても、まったく手助けできないのが悲しいですが、それはどんどん自分で勉強してください。私としては、このように自分の思っている考えを出して、その答えからモデルの勉強ができるわけで、反論・コメント大歓迎です。一応、参考までに実際の氷河にHigh orderモデルを適用した論文を挙げておきます。数式も少なく、結果を中心に書いてあるので読みやすいです;

Hubbard, A. et al.(1998): Comparison of the first order approximation for glcier flow with field data: Haut Glacier d'Arolla, Switzerland. J. Glaciology, 44(147), 368-378.

それから、以下の質問は、(いったん地形屋に変身して)私から部分的に答えても良いのですが、平衡線の問題など、自分で山口くんに植え付けた部分もあるので、寒冷地形談話会のMLに投稿してはどうでしょうか?これをきっかけにして、また議論がはじまると面白いし、「氷河作用研究グループ」の活動も活発化するでしょう。

>一番聞きたいことは、氷河地形から氷河を再現する際にその当時の氷河の状態まで考
>えているかと言うことです。
>たとえば、その当時の
>・涵養機構は、また消耗機構は?
>・流動特性は?
>
>具体的には
>・氷阿の上端と下端の高度差が平衡線高度の振幅より小さい氷河はモレーンを作成す
>るほど安定して存在できるのか(世界で5年以上平衡線高度が調べられている氷河(
>62)の平均の平衡線高度の振幅は390m(山口修論より))。
>
>・氷体形成のメカニズム:温暖氷河の氷化深度は20m以上(河島、1989)、それとも
>上積み氷で涵養?←そうすると小涵養・小消耗型???
>
>・小さい氷河(小さい涵養域)で流動するくらいの氷ができるのか?またモレーンを
>作るくらいの侵食力があるのか
>
>・底面すべりはあったのか?その大きさは?
>
>etc.
>
>このようなことまで考えて日本の氷期の氷河を再現し、実際の氷河で行われている観
>測結果と比較して”矛盾がないのか”もし”矛盾があれば”それを解決するにはどの
>ような仮説が必要か、またその仮説を証明するにはどのような観測が必要なのか(実
>際の氷河や地形調査で)等を考える必要があると思います。←氷河屋と地形屋の歩み
>よりのひとつの可能性???
>
>と、こんなことを書くとまた”打倒地形屋”の筆頭と間違えられてしまいそうですが
>・・・・・。


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