発表要旨「氷河底面流動機構に関する研究レヴュー」
発言者:杉山 慎 (北大低温研)
(Date: 2001年 2月 05日 月曜日 18:16:41)氷河の流動を「氷体内部の塑性変形」と「氷河底面での流動」の二要素に分けた場合、後者は底面が氷の融解温度に達している氷河で特に重要となる。山岳氷河で観測される流動速度の季節変化、南極氷床の氷流が示す大きな流動速度、各地の氷河で繰り返されるサージ、これらの現象は氷厚と表面傾斜から予想される氷の塑性変形では説明できず、底面での流動にその説明が求められている。氷河の底面で氷、岩盤、水、氷河底堆積物などがどう振る舞っているか把握する事は困難であるが、この難しい問題に多くの研究者が取り組み、より正確で普遍的な説明を与えようと試みている。
底面流動の理解を困難にしている原因として、関わる機構と要素の多様さ、観測の難しさ、の二つが挙げられよう。氷河が外界と接する境界が舞台となるが故に氷以外の要素が加わり、様々な流動機構をより複雑なものにしている。また観測の難しさ故に流動機構の議論は理論的な取り扱いが先行し、氷河底面での直接的な観測が一般化したのは最近の事である。比較氷河研究会では、これまでに提案されている底面流動機構と流動を特徴付ける要素について紹介し、最近の直接的な観測結果を用いて各流動機構に関する現状理解について報告したい。
「氷河が流れている」事に興味を持って研究を始めたが、氷河の底面流動が多くの要素と多様な機構に基いたものである事に驚かされた。頻繁に用いられる「底面滑り」という単語を使うことにためらいを感じる程である。そしてこの複雑な問題の理解に近づくため、多くの研究者が数100mの氷に孔を空け、工夫を凝らした測器を放り込み、「今」、「そこで」、「何が」、「どのくらい」起こっているか知るために努力している姿勢にも驚かされた。氷河流動の分野で注目を集めている底面流動機構に関して、想像に頼らない実直さと、常識にとらわれない柔軟さがバランスした議論を引き出せるような発表としたい。
参考文献
E. W. Blake, U. H. Fischer and G. K. C. Clarke 1994. “Direct measurement of sliding at the glacier bed”, J. Glaciol. 40(136), 595
H. Engelhardt and B. Kamb 1998. “Basal Sliding of Ice Stream B, West Antarctica”, J. Glaciol. 44(147), 223
N. R. Iverson, R. W. Baker, R. L. Hook, B. Hansson and P. Jansson 1999. “Coupling between a glacier and a soft bed”, J. Glaciol. 45(149), 31
D. I. Benn and D. J. A. Evans 1998. Glaciers and Glaciation, Chapter 4, Oxford University Press
P. G. Knight 1999. Glaciers, Chapter 7, Stanley Thornes Publishers Ltd.
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