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ティルの成因分類についての討論会をしませんか? 会議室:「Glacier BBS」

ティルの成因分類についての討論会をしませんか?

発言者:長谷川 裕彦(明治大・非)

(Date: 2001年 2月 15日 木曜日 21:51:02)


 比較氷河研究会では,地形やの間で「氷河底ティル」の定義に曖昧さの残ることが露呈し
たと思います.ティルの成因分類およびその前提となる氷河底プロセスは,現在進行形で議
論・研究されている問題であり,今すぐどうこうできることではありませんが,研究会や現
地で討論を重ねていくためにも(特に修士課程の院生や学部生に問題点をきちんと理解して
もらうためにも)一度きちんと議論しておいた方が良いのではないでしょうか.

 そこで提案です.敬愛大での集会時に何人かが話題提供をして「ティルの成因分類」につ
いてみんなで議論しませんか.とくに今回も話題となっていたロッジメントティルとデフォ
−メ−ションティルとをどう区分すべきか,話題提供者が各自の考えを述べ,分類試案(あ
るいは誰の分類基準を支持するか)を提示すれば活発な意見交換ができると思います.

 Dreimanis(1989)は,ティルの成因分類は分類すること自体が目的ではなく,氷河作用研
究を進展させていくために整理が必要だからするのだ,といったことを述べていましたが,
日々進歩しつつある氷河底プロセス研究やティルの分類について正しい理解を持つためにも,
けっして無駄にならないのではないでしょうか.

 皆さんのご意見を是非お聞かせください.


朝日 さんからのコメント
( Date: 2001年 2月 16日 金曜日 3:18:45)

隔離された地にあって,「比較氷河」を羨ましく見ていました.
発表内容のアップ,期待しています.

さて,ティルの云々.最近以下の論文が出たそうですが,そういう内容なのでしょうか.
読了の方,是非お知らせ下さい.当地でジャーナルを読むなど叶うべくもありません.
図書館に入っている雑誌で一番近そうなのが,"Economic Geography"ですから...

H. Ruszczynska-Szenajch (2001): ''Lodgement till'' and ''deformation till''. Quaternary Science Reviews, vol.20(-4), pp 579-581.


澤柿 さんからのコメント
( Date: 2001年 2月 16日 金曜日 8:48:57)

ターミノロジーの問題については,岩田さんのレビューで比較的整理(解決
ではない)されたと思います.私自身は,他分野と氷河学との関係から術語
の用法の一般的な制約事項というか使う際の注意点を指摘しましたが,朝日
さんが紹介された論文は,まさにその点をついています.つまり,氷河(地
質)学独自のタームを無節操に作るのはよくない,と指摘している訳です.

氷河学のパラダイムシフトの中に,ターミノロジーになにか本質的な意味が
あるとすれば,それは,単純な堆積学的解釈から構造・テクトニックな解釈
が要求されるようになった,ということなのかもしれません.

やはり世界にも,Boulton流の定義に不満を抱く人々がいた,ということで,
日本人として安心した次第です.われわれも決してばかじゃない(笑).
我々が議論して世界的にイニシアチブをとれるかどうかは疑問ですけど.
でも長谷川さんの提案されていることは避けて通れないことだと思います.


長谷川 裕彦 さんからのコメント
( Date: 2001年 2月 19日 月曜日 4:47:37)

 朝日さんの紹介してくれた論文,小生はまだ読んでおりません.明治の図書
館は現在移転中で使用不可能なのですが,どこかで手に入れて早急に読みたい
と思います.

>ターミノロジーの問題については,岩田さんのレビューで比較的整理(解決
>ではない)されたと思います.私自身は,他分野と氷河学との関係から術語
>の用法の一般的な制約事項というか使う際の注意点を指摘しましたが,朝日
>さんが紹介された論文は,まさにその点をついています.つまり,氷河(地
>質)学独自のタームを無節操に作るのはよくない,と指摘している訳です.

 と澤柿さんは言っておられますが,小生は岩田さんのレビュ−を聞いて余計
頭がこんがらがってきました.このサイトは,今まさに氷河作用研究に手を染
め始めた若い人たちに対する教育の場でもあるべきだ,という勝手な個人的解
釈に基づいて,ハジをかくことを覚悟の上で書き進めます.小生は90年代の重
要な論文をまだきちんとフォロ−してませんので,その結果として頭がこんが
らがっているのだと思いますが……(ですからこのアップに対して説明を加え
る人にはいい迷惑だと思います.ごめんなさい.).

 昨年の「氷河横ティル」の議論も含めて,話題の中心は「ロッジメントティ
ル」と「変形ティル」を中心とする氷河下ティルですよね.80年代までの認識
では,それぞれの定義は,

・氷河下融出ティル:停滞氷の底面での氷河氷の融解に伴って,「氷河底面」
 から「氷河底」に堆積した堆積物.
・ロッジメントティル:流動中の氷河底面からのロッジメントプロセス(圧力
 融解)による堆積作用によって堆積した堆積物.
・変形ティル:氷河前進時以前に存在した基盤や堆積物が,氷河による「ひき
 ずり」を受けて変形した堆積物(厳密には堆積物と言ってはいけない).
・氷河変動成堆積物:変形ティルのうち,氷河前進時以前の構造を残す堆積物
 (厳密には堆積物と言ってはいけない).

 となると思います.

 Benn and Evansを読み直しました(部分的にですが)が,問題になるのは
「ロッジメントプロセス」以外には見受けられません.90年代に入って,「ロッ
ジメントプロセス」に,「debris rich basal iceのロッジングが重要だ」とい
う事実が付け加えられた訳ですが,それをロッジメントプロセスと呼ぶのであ
れば,やはりその堆積物は「ロッジメントティル」と呼んで良いのではないで
しょうか.「それではつじつまがあわない.そのようなティルは氷河下融出ティ
ルと呼ぶべきだ」というのであれば,小生も納得がいきます(最終的な堆積プ
ロセスを重視する立場であれば).混乱の原因は,変形ティル(従来は氷河前
進前の基盤が変形)と氷河下変形層(subglacial deforming bed)とを混同
していることにあるように思えます.
 ここで,subglacial deforming bedとは,ティルになる前の氷河内・氷河
下岩屑層(岩屑密集層)に対する名称であり,「ティル」に対する名称ではな
いことに注意をはらう必要があるのではないでしょうか.「ティル」とは,氷
河氷から完全に開放されて初めて「ティル」(堆積物)になる訳ですから,そ
の過程の状態(subglacial deforming bed)と最終的な堆積物(till)とは分
けて考えるべきだと考える訳です.
 lodgementとは,そもそも「しっくいを塗る」といった意味なので,「前
進中(流動中)の氷河下での堆積プロセスを重視するのであれば,従来どおり
ロッジメントティルと呼べばよいし,最終的な堆積状況を重視するのであれば,
debris rich basal iceがロッジされた「氷河氷」の融出にともなって堆積した
ことを重視して氷河下融出ティルと呼ぶことにすれば良いように感じます.

 言いたいことは,「変形ティル」の定義とはいったいどういうものなのか?
ということです.先日の岩田さんのレビュ−および質疑応答での「氷河下ティ
ル」の定義では,従来の明確な定義(氷河の前進時に氷河から直接堆積した堆
積物か,それ以前に存在した基盤・堆積物が変形を受けたものか,によって区
分する定義)を混乱させるだけのような気がします(勉強不足のくせにスミマ
セン).

 この辺を整理しないといけないのではないかと考えています.澤柿さんのい
うところの「氷河(地質)学独自のタームを無節操に作るのはよくない」には
大賛成です.その点からも,従来のロッジメントティル・変形ティルの明確な
定義をむやみに変更することには賛成できないのですが….

 比較氷河研究会の総合討論の時に塚本さんがおっしゃっていたように,Benn
and Evansの教科書自体に混乱があるようにも感じますが,実は彼らはそのへ
んをきちんと分けて考えているのではないか,とも読み取れます.なにしろ英
語力の無さには自信があるほうなので,岩田さんや澤柿さんにあきれられるの
が落ち,ということになりそうな気もします.面倒をかけてしまい申し訳あり
ませんが,ご意見,お聞かせください.


澤柿 さんからのコメント
( Date: 2001年 2月 19日 月曜日 12:49:39)

朝日さんの紹介された論文(H. Ruszczynska-Szenajch, 2001),および,比較氷河研を契機として私が考えつつあることとして,堆積学や構造地質学の命名法をもっと勉強して,氷河地質学も基本的にはそれに従う,という方向が望ましいのではないかと思っています.しかし,あくまで氷河地質学で独自に生成しなければいけない概念も存在するわけで,その場合のみ,新たなタームを用いるべきでしょう.しかしざっとみたところ,氷河地質学独自のタームはすでに出そろっていますので,今後,新たなタームの創造の必要性は少ないと思います.

例)ダイアミクトンーメランジーブレッチャ

研究会での岩田さんのコメント(実は私も紹介しようと思って時間の都合でできなかったことなのですが)にあったように,氷河を岩石と同じようにとらえることで,比較的容易に地質学との接点を見いだすことができると思います.

たとえば,氷を鉱物の一種と考えた場合,氷河は,融点や相転移点に非常に近い環境下に存在する岩石と考えることができます.そうすれば,変成岩における変成度や火山岩におけるマグマへの地殻岩盤からの取り込みなども参考にすることができますし,火成岩と堆積岩とのインタラクションで生成される岩石の命名も参考にできると思います.さらには,地殻変動にともなう変形やタービダイトなども参考にできるでしょう.まだちゃんと検討していないのであくまで見通しとしての意見ですけど.

一番問題になるのは,シンジェネティックな堆積物の場合です.これがまさにロッジメントティルの定義の混乱している部分です.

---長谷川さん---
混乱の原因は,変形ティル(従来は氷河前進前の基盤が変形)と氷河下変形層
(subglacial deforming bed)とを混同していることにあるように思えます.
ここで,subglacial deforming bedとは,ティルになる前の氷河内・氷河
下岩屑層(岩屑密集層)に対する名称であり,「ティル」に対する名称ではな
いことに注意をはらう必要があるのではないでしょうか.「ティル」とは,氷
河氷から完全に開放されて初めて「ティル」(堆積物)になる訳ですから,そ
の過程の状態(subglacial deforming bed)と最終的な堆積物(till)とは分
けて考えるべきだと考える訳です.
----------------
その通りですね.
最終的な堆積物としてtillを記述するのであれば,動詞の「deform」は形容詞としては「deformed」になるべきです.シンジェネティックな概念および現在進行形の観察結果を重視するあまり,これが「deforming」になっているような気がします.たとえば,南極のアイスストリームで現在進行形で生成されているものは,とりあえずその現象を説明する目的として「subglacial deforming bed」が用いられることは許せると思います.

生き残っている厳密な意味での「斉一説」を根本原理にすえる場合,今起こっているプロセスを過去にも適用可能である,として残された堆積物を解釈するのが基本です.しかし,このシンジェネティックなプロセスは,現在の現象から過去の堆積物への適用がはじまったばかりの段階にあると認識していますので,現段階で可能な記述としては,「この露頭のこの層相は,現在の現象として観察されつつあるsubglacial deforming bedの残存物であると解釈できる」という言い方しかできない,ということになるかと思います.

氷河前進前の基盤が変形した従来の「変形ティル」はこの際ティルとしてではなくて,初生堆積プロセスを尊重し,それが後に氷河によって「構造地質学的に」変形した,と分かるように記述すべきだと思います(初生堆積プロセスが氷河であれば,それは本当の意味での「変形ティル」になります).その際にも,単に「変形」としないで,すでに構造地質学で使われているタームを用いるべきでしょう.

では初生的なティルは何か,となると,特に氷河底面の場合は「ロッジメント」だと思います.「氷河下融出ティル」については私は消極的で,ロッジメントでくくりきれない融出物は,デッドアイス下のキャビティフィルぐらいしか思いつきません.

氷河の底面からも,すでに有った下層からも岩屑をとりこみつつ,それ自体が変形しながら堆積物を生成していく,こういうシンジェネティックな堆積物を堆積学・変成岩学・構造地質学ではどう扱っているか,もっと勉強する必要がありますね.その上で,どうしても氷河地質学としてのタームが必要ならその時に考えればいいのではないでしょうか.

これについては,
H. Ruszczynska-Szenajch (2001)が提案している,
・Hard-lodgement till
・Soft-lodgement till
・glaciotectonoc diamicton

の区分は検討に値するものだと思います.


岩田修二 さんからのコメント
( Date: 2001年 2月 22日 木曜日 11:48:30)

 長谷川さんのご意見のうち「subglacial deforming bedとは,ティルになる前の氷河内・氷河下岩屑層(岩屑密集層)に対する名称であり,「ティル」に対する名称ではない」とありますが,氷河内岩屑層(debris rich ice)もsubglacial deforming bedなのですか? subglacial deforming bedとは,氷河底(氷河内を含まない)の物質すべてを指す言葉であり,そのなかには当然,氷河から出てきたティルも含まれています.したがって,場合によってはティルだけから構成されたsubglacial deforming bedもあり得るわけです.
 さらに,ここで長谷川さんが言われている「最終的な堆積物(till)」の意味が分かりません.止まった堆積物のみがティルということですか?


澤柿 さんからのコメント
( Date: 2001年 2月 23日 金曜日 11:24:06)

上記の岩田さんの質問に関しては,

Hart, J.K. 1998.
The deforming bed/debris-rich basal ice continuumcations the
formation of glacial landforms (flutes) and sediments (melt-out till),
Quaternary Science Reviews, 17, 737-754.

の中の図が私の持っているイメージに最も近い(というか一番影響されている)もの
です.つまり,氷河が存在している現在進行形の状態で見た場合は,
debris rich basal iceとsubglacial deforming bedは別物であるという認識です.

また先にも書いた「氷河下融出ティル」については,Hart(1998)の結論では,debris
rich basal ice layerからの融出物は,氷河が流動しているかぎり変形を受けざるを
えないので,融氷後の最終的な堆積物として観察した場合,deforming bedと区別す
ることは困難である,と述べています.

私が長谷川さんの「混乱の原因」としていることに同意したのは,
・従来の意味の変形ティルと新たな意味の氷河下変形層とを混同していること,
および,
・生成過程の状態と最終的な堆積物との区別の必要性
の部分です.


岩田修二 さんからのコメント
( Date: 2001年 2月 25日 日曜日 10:17:10)

澤柿さん,お答えありがとうございました.このお答えには小生も全く同意します.小生もHart, J.K. 1998は,現段階ではもっともクリアーに説明していると思います.


長谷川裕彦 さんからのコメント
( Date: 2001年 2月 26日 月曜日 19:15:12)

 「subglacial deforming bedとは,ティルになる前の氷河内・氷河下岩屑層(岩屑密集層)に対する名称であり,「ティル」に対する名称ではない」は,小生の言葉たらずでした.「氷河内」は削除します.小生も岩田さんの説明と同様,氷河下の変形層と認識しておりますが,氷河底岩屑密集層(debris-rich basal ice)がロッジされて氷河下変形層に取り込まれた場合,ごく短時間であれ氷河下変形層内に氷河氷が存在しうる,というイメ−ジから上のような変な定義をしてしまいました.おさわがせして申し訳ありませんでした.

(岩田さん:2001.02.22.)
>さらに,ここで長谷川さんが言われている「最終的な堆積物(till)」の意味
>が分かりません.止まった堆積物のみがティルということですか?

 小生は,氷河が溶けきって氷河の直接的なプロセスから完全に開放された堆積物についてのみティルの用語を用いるべきだと考えます.その意味で述べたつもりです.

 澤柿さんの説明を読んで,だんだん頭が整理されてきました.ティルの名称を最終的にどうするかといった問題点については,澤柿さんの意見に賛成です.ただ,結論を出すためには現在の氷河底でのプロセス研究がさらに進展し,同時に新たな視点を取り入れてのティルの見直しが進む必要があるため,結論が出るまでにはまだまだ長い時間が必要だと思います.

 その上で,最終的にどのような用語を使用すべきかといった問題はとりあえず置いておいて,現実問題として研究会や露頭の前でどのような共通の用語を使用すべきか,さらに議論する必要があると思います.流動中の氷河の底・下で生じるロッジメントプロセスおよび変形プロセスの結果として生成される堆積物は,おおよそ以下の3タイプに区分できるのではないでしょうか.

1)ロッジメントプロセスにより氷河下堆積物が形成され,その後,下位の物質を巻き込まなかった場合=従来のロッジメントティル(露頭では,さらに上流から引きずられてきた物質が含まれるかどうか判定不能なので,第四紀学の立場からは現実的な区分ではない;しかしティルとしては存在しうる)

2)軟弱な堆積物の上に氷河が前進して来たときに生成された氷河下変形層の最下部に,従来の定義の変形ティルが形成された場合=従来の変形ティル

3)2のような変形ティルの上にのる堆積物(従来のロッジメントティルと変形ティルがまぜこぜになったもの)=???

 ようは,ロッジメントティル・変形ティルの定義がより明瞭になった(より狭まった)訳です.皆で議論を進めるために3)をどのように呼ぶかが問題ですよね.

 氷河下融出ティルについて澤柿さん(2001.02.19.and02.23.)は

>「氷河下融出ティル」については私は消極的で,ロッジメントでくくりきれない融出物は,デッドアイス下のキャビティフィルぐらいしか思いつきません.
>また先にも書いた「氷河下融出ティル」については,Hart(1998)の結論では,debris
rich basal ice layerからの融出物は,氷河が流動しているかぎり変形を受けざるを
えないので,融氷後の最終的な堆積物として観察した場合,deforming bedと区別す
ることは困難である,と述べています.

 と述べていますが,ここで引用しているHart(1998)のいう堆積物はロッジメントティルを指すのではないでしょうか.
 小生は,停滞氷のdebris-rich basal iceの融解に伴って生成されるティルを氷河下融出ティルとして区分することは必要であり,その下位に存在するはずの前記1・3との区分が露頭で可能な場合もあると思います.


澤柿 さんからのコメント
( Date: 2001年 2月 26日 月曜日 22:48:09)

長谷川さん---Hart(1998)のいう堆積物はロッジメントティルを指すのではないでしょうか

そうだと思います.だから言っているように,氷河がある時点で見たときに融け出しているものは,
その時点ではメルトアウトであり,もし流動があればロジメントであり,さらには変形にもなるん
です.

長谷川さん---停滞氷のdebris-rich basal iceの融解に伴って生成されるティルを氷河下融出ティル
      として区分することは必要であり

停滞氷の場合,sub-なのかen-なのかsupra-なのかの区別は非常に困難だと思います.個人的には,
死んでしまった氷体から融け出した堆積物は,ダイナミクスと堆積物との関係がホットになってい
る中では,どうでもいいといえばどうでもいいことです(笑)

デッドアイスがどういう条件でできるかを考えると,サージによって急激に前進したあとに,アク
ティブな末端から切り離されるとか,デブリカバーなどによって,涵養がなくても氷体を維持できる
条件が整ったとか,そういう場合だと思います.そういうことまで含めて,過去の氷河の衰退状況を
復元しようとした場合は,デッドアイス起源の堆積物の認定は重要です.最終的に氷河が消滅すると
きは,カールの底でデッドアイスになるんでしょうけど.小さな氷河を北アで判読されている長谷川
さんとしては気になるところですよね.

デッドアイスはもう流動していないのだから,氷河とはいえない,という意見も成り立ちます.
でも,その中に含まれている岩屑はアクティブなときに運搬されたものだから,融け出してきて
堆積してもティルとしてよい.という理屈になるんでしょうかねえ.そうすると,

長谷川さん---氷河が溶けきって氷河の直接的なプロセスから完全に開放された堆積物についてのみ
      ティルの用語を用いるべき

という主張もなんとなく理解できる気がします.

でも,南極の現成アイスストリーム底の堆積物もティルにしたい,という気も残るんですよねえ...


岩田修二 さんからのコメント
( Date: 2001年 2月 27日 火曜日 18:31:28)

(1)長谷川さんが言われている「最終的な堆積物(till)」の意味が「氷河が溶けきって氷河の直接的なプロセスから完全に開放された堆積物についてのみティルの用語を用いるべきだ」というお考えには同意しかねます.氷河底のダイナミックスを理解し,(露頭で見る氷河の直接的なプロセスから完全に開放された)堆積物とつなぐことを試みようとしている我々にとっては,なんとも後ろ向きの考え方ではないのでしょうか.澤柿さんの「南極の現成アイスストリーム底の堆積物もティルにしたい,という気も残るんですよねえ...」というのが多くの氷河・氷河地質研究者の気持ちであると思います.
(2)長谷川さんのご意見:流動中の氷河の底・下で生じるロッジメントプロセスおよび変形プロセスの結果として生成される堆積物は,おおよそ以下の3タイプに区分できるについての小生のコメント.
「1)ロッジメントプロセスにより氷河下堆積物が形成され,その後,下位の物質を巻き込まなかった場合=従来のロッジメントティル」
 従来のロッジメントティルには,「下位の物質を巻き込まなかった場合」にくわえて「その堆積物が動かなかった(変形しなかった)場合」という限定が必要です.
「2)軟弱な堆積物の上に氷河が前進して来たときに生成された氷河下変形層の最下部に,従来の定義の変形ティルが形成された場合=従来の変形ティル」のなかの「氷河下変形層の最下部に」は「debris-rich basal iceの最下部に」の間違いではないでしょうか? そうだとしたら,おっしゃるとおり,これは従来の変形ティルです.あるいは,「氷河下変形層の最上部に」でしょうか? これも従来の変形ティルです.もし,それらではなく「氷河下変形層の最下部に,従来の定義の変形ティルが形成された場合」が正しいとしたらこれはglacitectoniteをふくむsubglacial deforming layerそのものでティルとは呼べないのではないのでしょうか.
「3)2のような変形ティルの上にのる堆積物(従来のロッジメントティルと変形ティルがまぜこぜになったもの)=???」の場合,ロッジメントのプロセスの結果がそのまま残っていると見て取れる場合はロッジメントティルと呼べるし,堆積後の移動・変形などが明らかなものは,従来からの変形ティルと呼ばれているものであると思います.まぜこぜになったものはいうまでもなく変形ティルあるいは変形層です.
 「3)をどのように呼ぶかが問題」であるとはほとんど思っていません.
 流動中の氷河からの氷河下融出ティルは,氷河底のキャビティの多さや水の存在の多さから考えて,かなり量が多いと考えています.ただし,Hart(1998)が強調しているようにすぐに変形ティル化してしまうと考えられます.
 繰り返しになりますが,「Hart(1998)の結論では,debris rich basal ice layerからの融出物は,氷河が流動しているかぎり変形を受けざるをえないので,融氷後の最終的な堆積物として観察した場合,deforming bedと区別す
ることは困難である,と述べています.と述べていますが,ここで引用しているHart(1998)のいう堆積物はロッジメントティルを指すのではないでしょうか.」という長谷川さんのご発言については,澤柿さんもいわれているように,これはロッジメントティルなのですが,ロッジングによって堆積した後は移動するので変形ティルになってしまうということなのです.ここがポイントです.わかっていただけましたか?


長谷川裕彦 さんからのコメント
( Date: 2001年 2月 28日 水曜日 23:31:59)

1)ロッジメントティルについて.

>岩田さん:従来のロッジメントティルには,「下位の物質を巻き込まなかった場合」にくわえて「その堆積物が動かなかった(変形しなかった)場合」という限定が必要です.

 比較氷河でも岩田さんのこの説明を聞いて頭が混乱しました.小生は,ロッジメントティルの定義を「流動中の氷河基底から圧力融解やその他の機械的プロセスによって氷河下に放出された物質が,その後の氷河の引きずりを受けて生成された堆積物」と認識しておりました.
 Dreimanis(1988)では,以下のような記述があります.
 Lodgement till is deposited by plastering of glacial debris from the sliding base of a moving glacier by pressure melting and/or other mechanical processes.(43p)
 Deformation of already deposited lodgement till by glacial drag under the glacier sole may accompany the accretional lodgement process(Boulton 1979, 1982, 1987;Dreimanis 1987a),…略….(44p)
 ロッジメントティルは,氷河下に放出された後にも継続的・断続的に強力な引きずりを受けるからこそ,これまでに記載されてきたような特徴的な堆積構造ができるものと解釈しています.

2)変形ティルについて.

 変形ティルについては,Dreimanis(1988)もきちんとした定義を与えているわけではありません.論文中では4ペ−ジ(pp49-52)を費やしてそれまでの研究をレビュ−していますが,結論は「今後の氷河底での直接的な観察の増加を待たねばならない」といったようなことになっています.ですから小生の持つ変形ティルのイメ−ジは,その他の80年代・90年代初頭の教科書や論文から得た情報を自分なりに整理したものですので,以下,「従来の変形ティル」は使用しないようにします.これまで80年代を代表する定義のような書き方をしてしまったことを,この場を借りておわびいたします.

 80年代にロッジメントティルと変形ティルとを区別する時に多くの研究者が重視していたのは堆積物の起源だと思います.すなわちロッジメントティルは上述のように主として氷河底から放出された物質からなり,変形ティルは主として氷河前進前にすでにそこに存在した物質からなる,ということです.この定義での変形ティルを「ティル」に含めるかどうかは,また別に議論しなければいけないことだと思います(フロ−ティルをティルに含めるか含めないか,についても同様と考えています).

 岩田さんのおっしゃる「debris-rich basal iceの最下部に」は,「debris-rich basal iceの直下に」ということでしょうか?
 「debris-rich basal iceの最下部」は,その後の氷河流動中に氷河下変形層に付け加わればロッジメントティルに,停滞氷となった後に氷河下に融出すれば氷河下融出ティルになるものと理解しています.
 debris-rich basal iceの直下で変形ティルが生成されはじめ,そのまま氷河が流動しなくなればその上位に氷河下融出ティルが,その後も流動が継続してロッジメントティルのもとになる物質が氷河下に蓄積されればその上位(変形ティルのどこかの層準から上位)にロッジメントティルあるいは前回小生が書いた「まぜこぜになった堆積物」が堆積するのではないでしょうか(わかりにくい説明でスミマセンッ!ボキャブラ不足です…).後者の場合でも,最下部の変形ティルの移動がいつまで継続したかはまた別の問題だと思います.ロッジメントティル(になる物質)とその下位に存在する変形ティル(になる物質)とが,同時に引きずられていて良いと思うのですが.

>岩田さん:「3)2のような変形ティルの上にのる堆積物(従来のロッジメントティルと変形ティルがまぜこぜになったもの)=???」の場合,ロッジメントのプロセスの結果がそのまま残っていると見て取れる場合はロッジメントティルと呼べるし,堆積後の移動・変形などが明らかなものは,従来からの変形ティルと呼ばれているものであると思います.

 小生もそうするのが一番理屈が通っているのではないかと考えております.これは大賛成です.

3)氷河下融出ティルについて.

>澤柿さん:氷河がある時点で見たときに融け出しているものは,その時点ではメルトアウトであり,もし流動があればロジメントであり,さらには変形にもなるんです.
>岩田さん:流動中の氷河からの氷河下融出ティルは,氷河底のキャビティの多さや水の存在の多さから考えて,かなり量が多いと考えています.ただし,Hart(1998)が強調しているようにすぐに変形ティル化してしまうと考えられます.

 このあたりから,だんだん問題点がどこにあるか見えてきました.80年代の定義では(これは明確に「以前の定義」と言ってよい),氷河下融出ティルとは,あくまでも停滞氷(わずかな氷河氷の変形は生じうる)の氷河下に融出したティルを指しており,融出と同時に流動する氷河の引きずりを受けた堆積物(これはロッジメントティルです)を含みません.
 小生からみると,澤柿さん・岩田さんは流動中の氷河底面で生じるプロセスと従来のティルの成因に基づく名称を混同して使用しているようにみえます(失礼な言い方かもしれません.すみません!).Benn and Evansは,これを混同しないように書いた結果,前半と後半がちぐはぐに見えるようになったのではないでしょうか?彼らは,流動中の氷河底で生じているプロセスを指すのに使用する「ロッジング」,「圧力融解にともなう岩屑の融出」,「空洞への岩屑の落下」と,「ロッジメントティル」・「融出ティル」を明確に区分しているように思えます.以前にも書きましたが,やはり現在の氷河の下で生じている現象やそれ自体(氷河下変形層)と,それらの複合的な作用の結果堆積したティルとを厳密に分けて議論しないと,話しがこんがらがるだけのような気がします.

>澤柿さん:停滞氷の場合,sub-なのかen-なのかsupra-なのかの区別は非常に困難だと思います.個人的には,死んでしまった氷体から融け出した堆積物は,ダイナミクスと堆積物との関係がホットになっている中では,どうでもいいといえばどうでもいいことです(笑)

 氷河下融出ティルと氷河上融出ティルとを区別することは困難な場合が多いと小生も思います.しかし,氷河作用研究の中で氷河が消失する時に生じる堆積物をきちんと区分し,認識していくことはとても重要なことだと考えます.ホットなテ−マはたしかに重要ですが,氷河作用全体に目を向けていなければ見落としてしまうものも出てくるのではないでしょうか.杞憂かなあ…

>澤柿さん:デッドアイスがどういう条件でできるかを考えると,…(省略)

 えっ,そうなんですか? 小生は,たとえば最終氷期の氷河が縮小・消失する時には,けっこう多くの場所で(非科学的表現ですみません…)停滞氷が生じていたようなイメ−ジを抱いていました.氷河が拡大から縮小に転じる時には,末端でスタックしていた氷河氷はそのまま停滞氷になる…といったイメ−ジです.このあたり,どなたか教えてください!

 無い頭を長時間酷使したのでオ−バ−ヒ−トしてきました.本日はこのへんでお許しを….


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