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温暖氷河→PT氷河→寒冷氷河 会議室:「Glacier BBS」

温暖氷河→PT氷河→寒冷氷河

発言者:白岩

(Date: 2001年 4月 13日 金曜日 1:00:10)


しばらくご無沙汰してましたので、今日の講演から話題をひとつ。講演者は、M.J.Hambrey (Univ. of Wales)、タイトルはStructural controls on sediment transport in polythermal glaciers, Svalbard。

スバルバールのNy Alesund近くの氷河上および氷河前面にある堆積物を調べ、堆積物の堆積構造・分布・重なり合いから、この周辺の氷河が小氷期から現在にかけての200年間程度の間に、温暖氷河→Polythermal氷河→寒冷氷河に変化したという仮説をたてた。温暖氷河の証拠は、Fluteなどの氷河底起源の線状堆積物、Polythermal氷河の証拠は、上流側にスラストする一連のハンモッキーモレーン、そして現在の氷河の温度を実測すると寒冷氷河であることから上記の仮説がたてられたそうです。

いろいろ?の部分もあるけれど、一般的には氷河の状態を表す代表的な区分である温暖・Polythermal・寒冷のカテゴリーが、たかだか200年程度で変わってしまうというアイデアは興味深く思いました。

彼によると、この考えでスコットランドやウェールズのハンモッキーモレーンやそれに連なる地形を再解釈すると、過去の氷河の温度環境も復元できるとのことでした。

でも200年程度の時間間隔で状態が変化するんじゃ、氷期の日本の氷河が寒冷氷河だったか、ポリサーマルだったか、温暖氷河だったか議論するのもむなしいような気がしてきました。

上の発表はどこかの雑誌でちらっと見たような気がしますが、思い出せません。また思い出したら書きます。


山口 さんからのコメント
( Date: 2001年 4月 14日 土曜日 1:36:47)

上記の話、非常に興味深いです。ぜひ雑誌を教えてください。

比較氷河でちょっとデータをいじった感想では、日本の氷河もステージによって氷河の状態が違ったのではないかと考えています(注)あくまでも私個人の感想です!!!)。

長谷川さんからせっかくデータをいただいていながら、解析を進めていない身なので大きな事はいえませんが・・・・。

ところで、上記の話では、地形的な証拠から仮説を立てていますが、モデル等によって検証とかしているんでしょうか? 他の雪氷学的手法でもいいのですが・・・。
後学のためにその点もぜひ教えてください。


白岩 さんからのコメント
( Date: 2001年 4月 14日 土曜日 18:47:10)

雑誌、今度大学行ったら探してみます。

温暖氷河、寒冷氷河、PT氷河の存在条件は、積算寒度と総降水量が決めているという結果を以前、小沢さんが学位論文で提示していたように記憶しています。スバールバールの場合、ここ200年間で数度温度が上がっているという情報があるそうですが、降水量に関しては不明です。当日の議論では、PT→寒冷氷河への移行は、氷河縮小に伴って、氷河表面からの低温が底部に伝わりやすくなったこと、あるいは小氷期に涵養域で堆積した冷たい氷が末端部に移流した結果、などなど色々意見が出てました。

多分、これを大規模にした現象がマックキールらが提唱している南極氷流の数千年周期の自励振動なのでしょう。氷河が小さい分だけ周期が短いのかもしれません。南極での現象に関してはモデルによる研究が進んでいるようです。

スバールバールのほうはモデルでの研究はないと思います。ブラッターさんが、興味を示していました。でも、表面の境界条件の時間変動、内部の温度場の計算、周辺基盤の様々な地殻熱流量などを考えると、小さい氷河の場合、3次元的な取り扱いが必要になるので難しいのでは?今、ETH/VAWの人たちが、アルプスのあるコルに発達する氷河でこの問題に取り組んでいますが、データの豊富さがハンバでなく、これだけデータがあって初めてできるようなテーマだと思います。

最後にHambrey仮説への疑問。温暖化で温暖氷河・PT氷河・寒冷氷河に移行するというのは、どうも逆のような気がする(だから面白いのですが)。氷体温度の平均値は温暖化で上昇するはずだから、最後には温暖氷河に逆もどりすると思うのですがいかがなもんでしょう?


岩崎@地球生態 さんからのコメント
( Date: 2001年 4月 15日 日曜日 11:21:43)

白岩先生 ご無沙汰しています.

>でも200年程度の時間間隔で状態が変化するんじゃ、
>氷期の日本の氷河が寒冷氷河だったか、ポリサーマル
>だったか、温暖氷河だったか議論するのもむなしいよ
>うな気がしてきました。

その通りですよね.でもそれを第四紀試料から読みとる努力が,今の(日本の)氷河地質学・地形学者に求められているのです.日高山脈で見られる氷河地形・堆積物は,空間的にも時間的にも非常に断片的です.編年の精度も数千年から数万年と非常にあらい.編年精度の問題は昨今の新しい年代測定法である程度解決できるかもしれませんが,地形や露頭の少なさはどうにも補えません.そんな状況で私にできることの一つは,個々の第四紀試料を大事にすることです.具体的には,氷河地形・堆積物について,分布や区分に注目するだけでなく,それが意味する氷河の温度・流動特性を読み込んでいくことが必要です(世界的な研究動向を考えればあたりまえの話ですが・・・).具体的にどのようにすべきなのかは,私のとろくさい頭の中で整理中です.氷河変動の時空ダイアグラムにそれら温度・流動情報を書き加えることが,日本をフィールドにする氷河地形屋の進路の一つなのかなーと思います.


白岩 さんからのコメント
( Date: 2001年 4月 17日 火曜日 23:12:23)

まず山口さんへ。
上の論文は、以下でした。ただし温暖氷河→PT氷河→寒冷氷河に関する遷移過程に関する記述ではなく、モレーンなどの記載中心の論文です。

M.J.Hambrey et al. (1999) Debris entrainment and transfer in polythermal valley glaciers. J.Glaciology, 45, 149, 69-86.

遷移過程に関しては、ひょっとして以下に記載されているかもしれません。が、こちらには雑誌がないので確認できません。北大にはあるでしょうから興味があったら見てください。

M.J.Hambrey et al. (1997) Genesis of hummocky moraines by thrusting in glacier ice: evidence from Svalbard and Britain. Journal of the Geological Society, London, 154, 623-632.

岩崎さんへ。
お元気ですか?比較氷河での発表を聞けず残念でした。その後の進展が楽しみです。帰ったらまた話し聞かせてください。ところで、今度のHambreyの話しを聞いた率直な感想は、よくこれだけのデータで、こんなにデカイ話(ある意味ではホラ?)を作れるな、というものでした。スバルバールのニューオルスン付近は日本の地形屋も何人か行っているようだけど、周氷河以外あんまり面白い話しないですよね?

日本の地質・地形屋さんはすごく緻密な話をするけれど、他分野の人を誘いこむほど面白い話をする人ってすくないでしょう。岩崎さんは既に沢山の面白いデータを持っているので、是非、氷河屋を引き込んで日高で面白い話しを作ってください。ホラ吹き人間万歳!


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