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ティルの成因分類についての討論会をしませんか? # 会議室:「Glacier BBS」

ティルの成因分類についての討論会をしませんか? #

ティルの成因分類についての討論会をしませんか?からの続き


澤柿 さんからのコメント
(Date: 2001年 3月 01日 木曜日 0:31:04)

長谷川さん--ロッジメントティルは,氷河下に放出された後にも継続的・断続的に強
      力な引きずりを受けるからこそ,これまでに記載されてきたような特徴
      的な堆積構造ができるものと解釈しています.

ロッジングという言葉は,あくまで氷の底部にあった岩屑がベースの地層に取り込ま
れるまでのプロセスを指すのであって,その後の変形はまた別の言葉で表現すべきで
しょう.その意味で岩田さんの意見でなんら不都合はないと思います.

長谷川さん--80年代にロッジメントティルと変形ティルとを区別する時に多くの研究
      者が重視していたのは堆積物の起源だと思います.

ここで誤解をさけるため,「起源」を「初成プロセス」と言い換えます.最近の底面
作用の研究の成果がパラダイムシフトを引き起こしている最大のポイントは,パラダ
イムシフト後の目で見直してみれば,最終的な氷河成堆積物からは初成プロセスがわ
からなくなるほどその後の変形が著しい場合が,それまで考えられていた以上に多い
ということ,さらに,初成プロセスを反映していると考えられていた構造も実はその
後の変形プロセスで解釈しなおすことができる場合があること,だと思います.

初成プロセスを重視するなら,それこそ,「ロッジング」を限定して使うべきなので
はないですかねえ.その後の変形(ひきずりはちょっと微妙)は,ほとんど同時に働
いているかもしれないけれども,次の別のプロセスにしたほうが妥当だと思います.
ですからロジメントティルは岩田さんの解釈を支持したいわけです.初成プロセスを
重視するという考え方は長谷川さんと同じだと思いますよ.

長谷川さん--澤柿さん・岩田さんは流動中の氷河底面で生じるプロセスと従来のティ
      ルの成因に基づく名称を混同して使用しているようにみえます.

     --やはり現在の氷河の下で生じている現象やそれ自体(氷河下変形層)と
      ,それらの複合的な作用の結果堆積したティルとを厳密に分けて議論し
      ないと,話しがこんがらがるだけのような気がします.

議論の中で多少混同して使ってしまったことはあるかもしれません.しかし,頭の中
では区別しているつもりです.今後はもっと気をつけたいと思います.

長谷川さん--氷河が拡大から縮小に転じる時には,末端でスタックしていた氷河氷は
      そのまま停滞氷になる…といったイメ−ジです.

もしかしたら,私の言っている「デッドアイス」と長谷川さんの「停滞氷」は同じ物
をイメージしていないのではないかと思い始めました.私の「デッドアイス」とはま
さにその言葉通り,流動せずに死んでいる氷です.ひょっとして,長谷川さんの「停
滞氷」とは,前進をやめて後退に転じた(あるいは転じつつある)氷河の事を指して
いるのでしょうか.もしそうなら,それは私の「デッドアイス」とは一致しません.

基本的なことですが,氷河はたとえ前進(厳密には末端位置が下流側へ拡大すること
)をやめても流動は継続しています.これは後退(厳密には末端位置が上流側へ後退
すること)期も同様です.氷河の定義通りに涵養があれば消耗もある以上,活動して
いる氷河の末端は解け水でビショビショなことには変わりありません.しかし,そう
いう氷河の底でも,流動している以上は依然として底面プロセスは働いているはずな
ので,純粋な氷河下融出ティルは残りにくいだろう,というのが基本的な発想です.
それから,「スタック」という意味がよく分からないのですが,私の「デッドアイス
」のイメージで「スタック」という言葉を適用するなら,それは「活動末端から切り
離された」ということを指すことになります.ですから,「スタック」が起こりうる
条件として先の事柄を挙げた訳です.

私が長谷川さん流に最終氷期の氷河の消長の中でのデッドアイスをイメージできる
のは,カールの底で雪渓に移行しつつある氷体だけですので,氷河下融出ティルの
分布にはあまり興味がない(笑),ということなのです


澤柿 さんからのコメント
( Date: 2001年 3月 01日 木曜日 1:15:44)

デッドアイスの件ですけど,雪氷組の氷河屋さんはどうお考えですか?

氷河の衰退過程で,ある程度まとまった氷体が活動末端から切り放されてし
まう「スタック」は結構おこりうることなのでしょうか?


長谷川裕彦 さんからのコメント
( Date: 2001年 3月 01日 木曜日 5:02:10)

 まず最初に前回のアップの中の以下の部分
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
>岩田さん:「3)2のような変形ティルの上にのる堆積物(従来のロッジメントティルと変形ティルがまぜこぜになったもの)=???」の場合,ロッジメントのプロセスの結果がそのまま残っていると見て取れる場合はロッジメントティルと呼べるし,堆積後の移動・変形などが明らかなものは,従来からの変形ティルと呼ばれているものであると思います.

 小生もそうするのが一番理屈が通っているのではないかと考えております.これは大賛成です.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 を訂正します.小生が岩田さん・澤柿さんの言っていることをしっかり理解していなかっただけでした.
 上の文での「従来からの変形ティル」は,小生の認識では従来のロッジメントティルです.

>澤柿さん:ロッジングという言葉は,あくまで氷の底部にあった岩屑がベースの地層に取り込まれるまでのプロセスを指すのであって,その後の変形はまた別の言葉で表現すべきでしょう.

 ロッジメントティルを生成する「ロッジメントプロセス(80年代)」には,澤柿さんの(90年代の)いうところの「ロッジング」以外の様々なプロセスを含んでいた訳です.90年代になってその様々なプロセスをそれまでと比べ物にならないくらい高解像度で分析できるようになったのだと思います.であれば,「ロッジング」を別の言葉に置き換えた方が理解しやすいような気がするのですが.
 少なくとも,その堆積物に対して,初生プロセスを重視して従来の意味と全く異なる意味での変形ティルとか氷河下融出ティルという用語は使うべきではないと思います.

>澤柿さん:最近の底面作用の研究の成果がパラダイムシフトを引き起こしている最大のポイントは,パラダイムシフト後の目で見直してみれば,最終的な氷河成堆積物からは初成プロセスがわからなくなるほどその後の変形が著しい場合が,それまで考えられていた以上に多いということ,さらに,初成プロセスを反映していると考えられていた構造も実はその後の変形プロセスで解釈しなおすことができる場合があること,だと思います.

 小生は(80年代の認識では),「流動中の氷河底から氷河下への岩屑の放出(様々なプロセスによる)〜その後の変形(引きずり)」といった多様なプロセスを経て生成された特徴的な堆積物をロッジメントティルと呼ぶ,と認識してきました.氷河成堆積物の多くはpolygeneticな堆積物であると思います.「初生プロセス=ティルの名称」とすることには,基本的に無理があるのではないでしょうか?澤柿さんや岩田さんのおっしゃっている意味は少しずつ判ってきましたが,やはり従来のティルの成因分類の枠組みの方が澤柿さんたちの枠組みよりも整理されているように感じてしまいます.少なくとも,最終的なティルの名称として,澤柿さん・岩田さんは「ロッジメントティル」・「変形ティル」「融出ティル」といったすでにきちんとした,あるいはある程度きちんとした定義のある用語を使わない方が良いと思います.

>澤柿さん:もしかしたら,私の言っている「デッドアイス」と長谷川さんの「停滞氷」は同じ物をイメージしていないのではないかと思い始めました.

 いや,多分同じなのではないでしょうか.小生の停滞氷のイメ−ジも『「デッドアイス」のイメージで「スタック」という言葉を適用するなら,それは「活動末端から切り離された」ということを指』しています.どなたかアドヴァイスを….


澤柿 さんからのコメント
( Date: 2001年 3月 01日 木曜日 8:01:09)

長谷川さん--「初生プロセス=ティルの名称」とすることには,基本的に無理
       があるのではないでしょうか?

あれ?

長谷川さん--80年代にロッジメントティルと変形ティルとを区別する時に多く
      の研究者が重視していたのは堆積物の起源だと思います.

このように長谷川さんが書いておられるので,「初生プロセス=ティルの名称」
とすることに同意されていたのかと思ってました.そういえば,長谷川さんの
「最終的な堆積物のみティルにする」という主張とこれとは両立しませんよね.
やっぱり私の誤解でしたか.ということは,長谷川さんの「起源」は「供給源」
の意味ですか?

私のポイントは,「供給源」よりも「プロセス」を重視すること,および「90
年代になってその様々なプロセスをそれまでと比べ物にならないくらい高解像
度で分析できるようになった」ことにあり,基本的には,高解像度で明らかに
できる最小限のステージまでプロセスを理論上で区分し,堆積物中からそれを
復元できる場合はそれを使えばいいし,分からない場合は別の言葉をつかう,
ということです.ですから,理論的に可能なプロセス,あるいは現成氷河でおこ
りつつあるプロセスも,ティルという範疇で言葉にしたほうがいい,と思うのです.
もちろん現成と最終残存物の区別は必要です.言葉の上でどう区別するかが問
題ですね.単語レベルで区別するより文脈や形容詞で区別するのが現実的かな,
とテンタティブには考えてます.

長谷川さん--「ロッジング」を別の言葉に置き換えた方が理解しやすいような
       気がするのですが.

この点に関して,歴史的な経緯も含めて整理されたのが岩田さんの発表の趣旨
だったと思います.私はそれを踏まえた上で,岩田さんの意見に賛成してるわ
けです.

それでいうと,別に新たな枠組みを作っているつもりはないんですけど...
今までもちゃんとした枠組みがあったようにも思えないし...

90年代以降の氷河底ティルの研究の進展を強調する意味で「パラダイム」とい
う言葉を使ってきましたが,本当のところは,氷成堆積物のタームに関しては,
今も昔も確固たるパラダイムはなかったと思っています.今は,都城のいうと
ころの,なし崩し的変化の段階だと思います.

しかし,ここまでの議論を通じて再考してます.確固たる枠組みがあったと思う
人がいる以上,確固たる枠組みを前提にしなければいけないのかな,と.そうい
う認識をとるなら,長谷川さんと私の間に,クーンのいう「通訳不可能性」がま
さに存在している,としなければなりません.

やっぱりパラダイムはシフトしたのかなあ...

(ターミノロジーは化け物ですなあ.言葉が決まっただけでパラダイムを作って
しまうんですから...物理屋さんが避けたがるのも分かります)


澤柿 さんからのコメント
( Date: 2001年 3月 01日 木曜日 9:46:34)

もう一度いままでの記事を読み返してみて,ようやく分かりました.

長谷川さん--結論を出すためには現在の氷河底でのプロセス研究がさらに進
      展し,同時に新たな視点を取り入れてのティルの見直しが進む
      必要があるため,結論が出るまでにはまだまだ長い時間が必要
      だと思います.

     --「現実問題として研究会や露頭の前でどのような共通の用語を
       使用すべきか」

これが問題なんですね!

私は,「現在の氷河底でのプロセス研究がさらに進展し」という待ち受け的
姿勢より,自分でその部分に貢献したいと思っています.ですから「プロセ
ス」を重視するわけです.日本の氷河を考える立場から,「現在」だけでは
なくて「過去」へもそれを適用することもねらっています.これは,「現在」
が十分に進展するのを待ってからやるのではなく,同時進行でやっていく必
要があると考えています.

研究会や露頭の前では,長谷川さんと私の2つ視点に代表される立場を表明
してから議論すべきだと思います.今はそういう段階だと思います.


澤柿 さんからのコメント
( Date: 2001年 3月 01日 木曜日 14:14:59)

「ちゃんとした定義のある用語」--------これがくせ者です.

私は用語・術語の中にプロセスの概念が含まれている以上,きちんとした定
義として固定されることはありえないと思います.

プロセス研究の推進にとっては,むしろ,従来の意味を引退させて,新しい
意味に「融出ティル」「ロジメント」等々の言葉を空け渡すべきだと,強く
主張します.

なお,新しい主を迎えた後の言葉を用いても,従来の事象は説明可能です.
その時は,従来と全く同じ様に説明されるのではなく,より発展した厳密
性や有効性を含んだ形で説明できているはずです.これが科学的進歩の本質
なんじゃないでしょうか.


岩田修二 さんからのコメント
( Date: 2001年 3月 02日 金曜日 11:34:17)

 先日来の長谷川さんと澤柿さんの議論で,何が問題だったのかよくわかりました.そのことはもう繰り返しません.ここでは,長谷川さんともかかわるので小生の思いで話を(つまらないことですが)読んでください.
 1983年に天山山脈で,砂礫の氷河床の上にある流動中の氷河底の厚さ数メートルのdebris-rich iceを見たときに,氷河床のプロセスや堆積物の成因が教科書と違うのではないかと漠然と感じました.1989年にDreimanisの論文(の載った本)が出たときすぐ読んだのはそのためです(余談ですが1989年のチベット調査中に読んだので頭によく入り,一応の権威として使いました).1990-91年の南極の調査の時には長谷川さんに吹聴した記憶があります.
 それ以後,久しく氷河地形の論文を読んでいなかったのですが,1998年出たBenn & Evansの教科書を拾い読みして,もうDreimanisは使い物にならんと思ったのです.そして,今度,比較氷河研究会でしゃべるために1970年代からのBoultonnの論文を古い順に見ました(数式の部分はとばして)(それまではBoultonの論文はリジッドベッドの侵食のものしか読んでなかった).Boultonは偉大だと思いました.よい弟子たちも育てました.
 先日の比較氷河研究会でいいたかったことは,小生はもう引退ですので,「長谷川さんや澤柿さん,白岩さん,そのほかの若い方には,ぜひ氷河底プロセスと堆積物の両方がわかる氷河研究者になって欲しい」ということでした.


長谷川裕彦 さんからのコメント
( Date: 2001年 3月 03日 土曜日 6:10:12)

 昨夜,比較氷河研究会以来久しぶりに若い人たちと酒を飲みながら,この掲示板の内容について話す機会がありました.彼らも,自分自身の問題としてティルについて考え始めてくれたようです.考え始めたのなら,せっかくだからこの場に考えをアップしてほしかったですけど.
 ということで,小生が「議論する場を」と提言したことの第一の目的は「ある程度」達成できたのではないかと考えています.白岩さんが新たな議論の場を提示されましたし,岩田さんからも「まとめ」としてのアップがありましたので,小生も自分自身の現時点でのまとめをしたいと思います.今後は白岩さんのリ−ドするコ−ナ−にティルの議論の場が移動することになると思いますが,どうか若い人たちは勇気を出して自分の意見をアップしてください.40になった小生が恥を覚悟でここまで引っ張ったのですから,20代・30代の方たちが「恥ずかしいから…」,「良く判らないから…」という理由で今後も意見を述べなかったとしたら,それは断固として許せません.白岩さんの設置したコ−ナ−で,若い人たちが議論に参加しだした時に初めて,文頭の「ある程度」が「ほぼ」に変わると考えています.若い人たち,頑張ってくれよ!(ここでの「若い人たち」には,氷河作用研究者以外,たとえば岩石氷河に代表される周氷河作用・地形を研究している人も含まれています.ようは,「関心を持ってここでの議論を読んでいた若い人たち」です.念のため.)
 第二の目的は,小生自身が現状をしっかり認識することだったのですが,これはほぼ達成できたと思っています.
 第三の目的は,ここでの議論を通して自分を含めた現状認識のきちんとできていない研究グル−プのメンバ−全体が共通の認識を持てるようになること,だったのですが,これは小生の認識不足・力量不足もあって全く達成されなかったと思います.というか,最初から簡単に達成できるものではないと思っていますし,そのきっかけ作りができれば……程度の考えだったので,ある意味では第一の目的の達成をもって第三の目的のきっかけ作りができた,と認識しても良いかなと考えています.
 いずれにしてもここまで時間を割いて下さった岩田さん・澤柿さんに深く感謝いたします.

 それでは最後に,ティルに関する現状での小生の認識,および小生の認識の限りにおいての岩田・澤柿両氏と小生との考え方の違いをまとめておきます.今後,さらに勉強していくなかで,自分の考え方に大きな変化が生じた時には,また報告したいと思います(その過程って,澤柿さんのパラダイムシフト論の論考にはけっこう役立つんじゃない?).ここから先で使用する地質学用語に間違いがあった場合,また岩田さん・澤柿さんの本意と異なる点については,澤柿さん,すみませんが訂正をお願いします.

1)ティル
長谷川:氷河による運搬・変形が完全に終了し,氷河から完全に開放された時点でその物質をティルと呼ぶ.
岩田・澤柿:氷河から放出された時点でその物質をティルと呼ぶようにした方が良い.

 この問題で小生が現在こだわっているのは,a)「ティル」という堆積物の初生構造は,氷河から完全に開放された時点でその形成を終了する(polygeneticな堆積物である);b)であれば,その前と後とでその物質に対する呼び方を変えた方が理解しやすい;c)「その後」をティル,「その前」をたとえば,氷河上岩屑,氷河下岩屑(氷河下変形層)と呼べば良いのではないか,といったようなことです.
 これは80年代の考え方そのままです.今後の勉強で自分自身の考えがどのように変化していくのか,小生自身一番楽しみにしているところです.

2)ロッジメントティル
長谷川:上の考えに基づくと,主として氷河底から氷河下に様々なプロセスで放出された物質が,その後の引きずりを受けて生成された堆積物.岩田さん・澤柿さんのロッジメントティル・変形ティル・融出ティル(の一部)を含む.
岩田・澤柿:氷河底部からロッジングのプロセスによって氷河下岩屑層となった物質.たいていはその後に変形を受けるので,最終的には(露頭においては)ロッジメントティルが残されることはまれである.

3)変形ティル
長谷川:当初は,氷河前進前の基盤が氷河の引きずりを受けて変形した堆積物,と考えていましたが,この議論を通して自分なりに整理がつきました.このような堆積物は,岩田さんや澤柿さんのおっしゃる通り,ティルと呼んではいけないと思います.これはやはり氷河変動成堆積物と呼ぶべきですね.
岩田・澤柿:流動中の氷河下で氷河の流動と連動して氷河下変形層に生じる変形プロセスによって生成される堆積物.長谷川のロッジメントティルの大部分を含む.

 変形ティルに関連して現時点で小生のネックになっているのは,構造地質学では初生構造の変形に対して「変形」という用語を使用していることです.欧米の研究者たちや岩田さん・澤柿さんの「変形」の使い方だと,氷河からその外部に岩屑が放出された時点でティルの初生構造形成プロセスが終了し,その後の氷河下「変形」層での「変形ティル」の形成プロセスはすでに後生構造の形成プロセスに入っている.そこがどうもうまくイメ−ジできません.連続的に変化する部分に初生構造形成プロセスと後生構造形成プロセスの境界を置くよりも,氷河から完全に開放されたところに境界を置くほうが理にかなっているように感じている,というのが小生の現状です.これも今後の勉強でどう変わっていくのか,楽しみにしているポイントです.

4)氷河下融出ティル
長谷川:停滞氷から静的な環境下で氷河底岩屑・氷河内岩屑がその底面に融出して生成された堆積物.
岩田・澤柿:流動中・停滞を問わず氷河底面に融出した堆積物.氷河が流動中の場合は,その後の氷河流動に伴う変形を受けて変形ティルとなる.

5)氷河上融出ティル
 これは今回まったく議論されていませんが,議論を通しての小生の理解を書いておきます.
長谷川:氷河内を運搬された履歴を持ち,氷河上に融出したのちもその時点で生成された構造を残したまま堆積した堆積物.
岩田:氷河内岩屑が氷河上に融出した時点で氷河上融出ティルとなる(で良いでしょうか?).
 ただし,
長谷川:氷河上のみを運搬された岩屑(一度も氷河内に取り込まれていない岩屑)も最終的には氷河上ティルになる.
岩田:氷河上を運搬されただけの岩屑はティルには含めない.

6)フロ−ティル
 これも今回議論されていませんが….
長谷川:氷河上岩屑が氷河融解時に様々なマスム−ブメントを受けて生成された堆積物.細粒物質を多く含む氷河上岩屑の場合(氷河底起源の物質が氷河上に融出した場合),最終的な初生構造の形成までに,マスム−ブメントを受けフロ−ティルとなる場合が多い.
岩田・澤柿:????(従来のフロ−ティルはティルとは認めない?)

 以上のように,岩田さん・澤柿さんの意見は,氷河(氷体)から氷河外へ物質が放出された時点で氷河内・氷河底岩屑がティルとなる,ティルの名称はその時の初生プロセスを重視してつけるべきで,その後の変形によって層相が変化した場合はその変形プロセスを重視して分類する(とするとフロ−ティルもありか?),といったように非常に理解しやすい分類体系になっています.
 でありながら,小生はまだ納得のいかない部分をかかえています.それはちょっと置いておいて….

  (ちょっと長すぎみたいなんで,2回に分けます)


長谷川裕彦 さんからのコメント
( Date: 2001年 3月 03日 土曜日 6:11:19)

 ある若手からもっと判りやすく説明してほしい,とのリクエストもあったのでトライしてみます.これが判りやすい例なのか基本的に間違った例の出し方なのか(出した例自体が間違って認識している可能性もあります)自信がありません.澤柿さん,すみませんがフォロ−してください.
 たとえばマグマが噴火口や割れ目から地表に流れ出して溶岩流となった場合,重力によって斜面下方に流動していきます(イメ−ジはハワイやアイスランドで典型的に見られる流動性に富んだ玄武岩質溶岩です).流れながら溶岩の表面は冷却されて部分的には固相になります.しかし,それらは溶岩流の上に乗って移動を続け,変形をうけたり再度液相の溶岩に取り込まれたりしながらどこかで止まるまで流動し続けます.最終的に流動の止まった場所で,表面の急冷,内部の緩慢な冷却の結果,1枚の溶岩流に独特の岩相(外側はバリバリ,内部は柱状節理)が生成されます.この溶岩の初生構造は,そこではじめて形成が終了する訳です.
 ティルの初生構造の形成終了は,氷河から完全に開放された時点に置くべきだ,といったのは以上の説明と同様のことです.
 また,以前に小生が変形ティルと認識していた堆積物は,この場合では溶岩流の下敷きになって変質・変成作用を受けたもともとの基盤(溶岩以外,たとえば堆積岩と考えてください)にあたりますので,溶岩に焼かれて以前とは似ても似つかぬ岩相に変化していてもそれを溶岩と呼んではいけない訳です.そこで,変形ティルと言っていたものを氷河変動成堆積物(氷河作用に伴って生成されたテクトナイト)と言い換えました.
 ……たとえ話はここまで……

 ちなみに,流動している液相の溶岩も初生構造の形成が終了した固相の溶岩も,両方とも溶岩なのだから,ティルの場合も同様に両方ともティルで良いのかもしれません.ただ,澤柿さんもいっているように,議論を明確にするために,両者をきちんと区別することが現時点では重要だと思います.

 であれば,まだ混とんとしている状況の中で議論に不必要な混乱を生じさせないために,
1.初生構造の形成が終了する時点(氷河から完全に開放された時点)を境に,その前後を明確に区別できる用語を提示する.
2.氷河下の堆積物だけでなく,氷河上も含めて氷成堆積物全体の分類基準を提示する.
3.「自分が・・・・と呼んでいる堆積物は,従来(80年代)の認識では・・・・と呼ばれていたものだ」ということをきちんと提示する.
 ことが必要なのではないでしょうか.

 このように考えた場合,現時点の小生は,(繰り返しになりますが整理のために)
1)初生構造の形成が終了した堆積物をティル,それ以前の岩屑を氷河上岩屑・氷河下岩屑と呼ぶ.氷河内の岩屑は氷河底(部)岩屑・氷河内(部)岩屑と呼ぶ.これは80年代とほぼ同様.
2)理論的には,(下位から順に)ロッジメントティル・氷河下融出ティル・(氷河下フロ−ティル)・氷河上融出ティル・氷河上ティル・氷河上フロ−ティルに区分し,他に氷河変動成堆積物を区別する.これも80年代とほぼ同様.
3)1と2でほぼ説明済み.細部は省略.
 として,新たな知見である氷河下変形層については「ティル」という用語を用いずに別の用語で議論する.そこでの複雑な作用の結果として最終的に生成された堆積物を,とりあえずロッジメントティルと呼んでおく.氷河下での観察や過去の堆積物の見直しを進める中で,常にベストの分類基準を求め,議論していくことにより,上記2をクリアできた時に新しい「ティル」の名称を決定する.
 とするのが一番不必要な混乱を招かない,スッキリした行き方だと思った訳です.

 基本的に90年代の重要な論文をきちんとフォロ−せずに教えを請うた小生が言うことではないのですが,小生がスパッと納得できなかったということは,岩田さん・澤柿さんにも説明不足の点があったのだと思います.それが,上に示した1〜3の説明不足に起因しているように思えました.

 岩田さんの最後のアップにあったとおり,小生が,生成プロセスを重視してきちんとティルを記載・分類・研究していくべきだ,特に日本の氷河作用研究が世界に貢献できる重要なテ−マとして小規模な山岳氷河によって生成された日本のティルの研究は重要だ,と考えるようになったのは,1990年寒冷地形夏の学校(横尾谷・涸沢)での岩田さんの貴重な示唆があったからです.帰京後すぐにDreimanis論文をコピ−して,南極への行き帰りも含めてすり切れるまで読み込みました.今回のご意見を参考にしながら,90年代の論文研究を進め(もちろん同時にフィ−ルドワ−クを進め),その上で改めて「岩田さんと同じ考え」になったかどうかご報告します.ならなかった場合には,岩田さんが納得するような説明をきちんとできるよう努力するつもりです.

 最後の一文は蛇足かな…とも思いましたが,若い人たちに読んでもらうことに少しは意義がありそうなのでそのまま消さずにアップします.

 最後に改めて,岩田さん・澤柿さん,どうもありがとうございました.


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